第三話 まどろみの夜


かすから部屋に来てと言われた。

用件は分からないが間違いなくお誘いでは無い。


「入って良いか?」

「いいよ、入って」


すぐにドアが開くと急かされるように中に入れられた。

ベッドに座るかすみの隣に腰をかけ2人は

しばらく沈黙が続く。


口火を切ったのはかすみの方だった。


「ねぇ…」

「なんだ?」

「はーくんはさ…私の事どう思ってる?」


かすの口から出てきたのは予想外の言葉

だった。

ホラー映画観るのが怖いから呼ばれたとか

そんな感じで思っていた。


「どう…って。い…妹だろ?」

「違う…!もっと、女の子として」

「それは…俺らのその関係は終わっただろ」

「…ごめんね」

「そんな事言いたくないよね」


かすみはしゅんと項垂れる。


「けど…一つ言うなら」

「僕はかすの事を嫌いになったことはない」

「これだけは事実だ」


かすみは俯いたまま顔を赤く染める。


「そ…そっか」


ダメ…笑顔になる顔を抑えることができないよ。

別れたはずなのに…兄弟なのに…好きって

言われたわけじゃないのに。

それでも、胸がドキドキする。


「大丈夫か?」

「…うん」

「顔が赤くなってる。熱があったらどうする」


そう言って葉月はかすみのデコと自分のデコを重ねる。

熱を感じるためにそのまま数秒間目を瞑って考える。


「んー…熱はなさそうだな」

「ん?どうした…顔がさらに赤いぞ?」

「薬持ってこようか?」

「ばかぁぁ!そんな近くに来ないでよ!」

「無意識に主人公ムーブかまさないで!」

「はーくんのバァーカ!」

「な…!僕は心配してやっただけだ、

流石に傷つくぞ?お?」

「ばかばかばーか!」


「レパートリーを増やせ!だから成績が

悪いんだよ」

「はーくんだって理数はからっきしじゃない」

「ふん…足し引き割り掛けができれば生きられる」

「弱く見えるわよ?はーくん」

「お前は愛○隊長か」

「はぁ…バカバカしい」


葉月はTVの下にある大量のアニメの円盤から

一つ取り出す。


「何を見るの?」

「CLANNAD」

「人生ね…私も見る!」


2人は1階から1.5Lの炭酸飲料と

エナジードリンク。

大量の袋菓子を準備した。


「朝まで動かないわよ?」

「僕も見終わるまでここに居させてもらう」

「寝たら悪戯しちゃうから」

「ふんっ…できるものならやってみろ…」


そこから数時間が経ち

2クール目に入り深夜に差し掛かった時。


「はーくん…やっぱり寝たんじゃない」

「…意外とまつ毛長いのね」

「んっ…ん〜」


葉月は寝た状態のまま目の前にいたかすみを

抱きしめる。

ベッドの上で抱きしめられる形になり動揺する。


「え…!?ちょっ…はーくん」


葉月が息をする度に耳に息がかかる。

その度に「ん…!あ…っ!」と声を漏らすが

必死に声を抑える。


こんなの聞いてないよ。

はーくん…そういえば抱き枕が無いと寝れないって言ってたっけ…。

けど…色々とピンチなの。

はーくんの身体に胸がダイレクトに

当たっちゃうし、ブラもしてないから…。


必死に耳にかかる息を堪え、葉月の服をギュッと掴む。

擬似的に抱き合う形になる。

必死に上へ上へともがいてかすみは

何とか葉月の顔の前に顔を出すことに成功

する。


「失敗した…顔近すぎぃ…」

「息遣いも唇も目の前に…」

「はーくんは本当に私の事嫌いじゃないのよね?」


するとかすみはゆっくりと顔を近づけて

一瞬、唇にキスをする。

触れるだけで相手は寝ている状態だったが

その罪悪感は逆に高揚感に変わる。


「ん…チュ…!」

「私…悪戯するって言ったもん」

「抱きしめてるんだからおあいこね」

「おやすみ…はーくん」


そしてかすみは葉月の腕の中で眠る。


翌朝

「お…おい。何で僕の腕にかすがいる」

「あ…起きたの?おはよ」

「なんでかすがここにいるんだ」

「はーくんが抱きしめてきたんだよ?

私は何も悪くないもん」

「ゔっ…抱き枕持ってくるんだった」

「何を今更…散々抱きしめた女の身体よ?」

「妙な言い方をするな!」

「違うの…?」


かすみは上目遣いで葉月を見つめる。


「う…そ…そうだけど」

「なら2人だけの内緒ね」

「私、下に行くね」


内緒にしたいのはギューよりチューだけどね。

なんちゃって…。


かすみは葉月の腕から出ると下へと降りていく。


「くそ…!やらかした」

「僕に限ってこんなラノベ展開許されない」

「悔しいけど…いつもよりぐっすり眠れたな」

「なんでだろ…」


葉月はつけっぱなしのTVを観ると

家族が3人で抱き合っている姿が映し出されていた。


   

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