第20話 決着!凍夜完全制覇!そして、めぐみと結ばれる。

(なんだ?体が動かねぇ。まさか倒れたのか?死ぬ?いや、さすがにここで

くたばるわけにはいかないぞ)


遙や他の部員達、さらには隼人も凍夜の所にかけつけてきた。審判もそれを

見てタイムを取ろうとした時、凍夜は立ち上がった。


「おい、長峰」


遙の声に反応してない。立ち上がってはいるが、まだ反応がない。

皆声をかけて1分ほどしてから凍夜は目を覚ました。


「遙、なんでここにいる?それに他の奴らも」

「覚えてないのか?お前、倒れたんだぞ」

「誰が?」

「お前だ。ほんの数分だが、反応がなかったんだぞ」

「悪い。まぁもう大丈夫だ」

「だとしてもベンチに戻るぞ。タイムが取られているからな」


タイムが取られている事に気づいた凍夜はしかたなくベンチに

戻ろうとした時、隼人が声をかけてきた。


「おい、お前、どうして倒れた?連戦で疲れたとかみたいな倒れ方じゃ

なかったぞ?」

「心配するな。すぐに戻るから、先輩は準備しててください。次で終わる

から帰る準備をな」

「それだけ言えるなら心配はないか」


隼人も戻り、凍夜達もベンチに戻る。そこで当然めぐみや洋子が

心配しながら声をかけてきた。


「凍夜君!」

「先輩、大丈夫だ。もう落ち着いてる」

「もうって事はやっぱりさっき意識を」

「数秒だけだ」

「いや、1分はあったぞ」

「遙は黙ってろ。俺は大丈夫だ。あとたった一球で終わるのにタイムなんか」

「長峰君!最悪、あなたを交代させるわよ」

「なんでだよ。あと」

「その一球でまた倒れたどうするの?もし、そんな事になったら試合は

没収されるわ。それどころか、倒れるまで投げさせた私や皆に批判の

声が来るわ。あなた一人の問題じゃないの」

「だとしても、次で倒れる事はない。投げさせろ」


凍夜が初めて感情的に監督に言った。ベンチの中が沈黙する中、そこに

かけつけた早苗がやってきた。

早苗と会うのは皆初めてだった。病室でも会った事はなかったからだ。


「あなたは?」

「私は、彼の義理の母親で医者の霧沢早苗です。この子をずっと見てきて

いたわ。だから、投げさせてあげてもらえないかしら」

「本当に大丈夫なんですか?」

「ええ。今は感情的になってるけど、落ち着けば大丈夫です。もう

落ち着いてるわよね凍夜」

「ああ。心配ない」

「この子が何かに今初めて夢中になってるんです。ですから最後まで

続けさせてやってください」

「……わかりました。長峰君、本当に大丈夫ね?」

「任せろ」

「なら」

「!?」


洋子が行きなさいと言う前に凍夜の前にめぐみが立ちふさいだ。


「凍夜君、いってらっしゃい」

「ああ。行ってくるよ。めぐみ先輩」


本当は止めたかったが、凍夜が初めて前向きにしようとしてるのが

わかったのでめぐみは止めるのをやめた。そして、帽子を渡して

凍夜を見送る。他の部員達もグラウンドに出て来てそれに球場全体が

わき、拍手喝采が起こる。


「あの、お母さん」

「何かしら?」

「大丈夫ですよね」

「大丈夫よ。あの子は強いから」


その言葉に安心するめぐみ。そして、凍夜はマウンドに上がり、遙達も

ポジションにつき、それを見て隼人も打席にたった。

一瞬静かになる球場だが、心配の合図で試合が再開すると一気に歓声が

響き渡った。


そして、凍夜が振りかぶり、体を捻り、トルネードから超速球を

投げた。隼人も渾身の振りをするがバットは空を切り、遙の

ミットに吸い込まれ、今までで一番の衝撃音が響いた。


審判がストライクとゲームセットのコールをし、本当に試合が終了した。

そして、ここにとんでもない記録が達成された。地区大会から合わせると

凍夜は一人で全て完全試合を成し遂げ、さらに世界新記録をいくつも

出し、その中で誰もが驚いたのが、全てストレートだけだと言う事だ。

一球だけ変化球を使ったが、それはボールなのでカウントされなかった。

マウンドでは凍夜を部員達が全員で胴上げをする。投手を胴上げするのも

また珍しい光景だ。


凍夜達はスタンドに学園の皆にもあいさつをする。凍夜以外の部員達は

皆泣き崩れている。それはうれしすぎての事だ。


ベンチに戻り、今度は監督を胴上げした。これも初めての事で甲子園

初の女性監督の胴上げだ。遙達が胴上げをしている時、凍夜はそれに

参加せず、めぐみと二人で話していた。


「おめでとう凍夜」

「ああ。ありがとう。最後は、あんたの為に投げた。あんたが送り出して

くれたからすげぇ楽になれた。ありがとうめぐみ先輩」

「凍夜」


めぐみは凍夜に抱き着いた。それを遙達はひそかに見ていた。早苗も

それを見て安心し、先に帰った。


こうして今年の甲子園は最弱校が初めて全国を制覇するという快挙で

幕を閉じた。その夜は当然、碧陽学園の事でニュースも世間も話題で

もちきりだった。そして当然、全世界の野球関係者がこれから凍夜を

獲得する為に動く事にもなる。


その凍夜は学園に戻り、夜だが、全校生徒が集合し、集会が急遽行われ

報告会をし、そこで盛り上がった後、凍夜はめぐみに呼ばれ屋上に

向かった。


「終わったんだね」

「ああ。意外とあっという間だったな」

「そうね。でも、うれしかった。こんなに好きな事で一番上に行けた

なんて。春までは夢にも思わなかったからね」

「だろうな。あのメンツじゃ一回も勝てないだろうからな」

「そうだね。でもそれが一気に全国制覇した。これも皆あなたのおかげよ!

ありがとう」

「!?」


めぐみは抱き着き凍夜にキスをした。そして。


「ねぇ私達、恋人になってもいいのよね」

「……あんたがそれでいいなら構わない。だが。俺はどのみちすぐに

死ぬ。そんな俺でもいいのか?」

「もちろん。最後まで私がついてるわ。好きよ凍夜」

「先輩」

「めぐみって呼んで」

「わかった。めぐみ」


凍夜からめぐみに抱きついた事にめぐみは喜びまたキスをし、そのまま

見つからないように、凍夜とエッチをした。


めぐみや皆と別れてから凍夜は病室に帰り、めぐみの事や今までの

事を思い出しながらこの日は眠りについた。いつもは病室で寝る

時は寝付けないのだが、この日はすぐに眠りにつく事が出来た。


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