第5話 凍夜の超速球!

遙が凍夜の所にやってきた。


「おい、あいつお前の速球を打ちに来てるぞ」

「ああ、それが野球だからな」

「いや、そうじゃなくて、あいつ一年だぞ。体格も俺とかと変わらんし

なのに客席まで飛ばしてやがる」

「まぁずっとまっすぐでど真ん中だしな」

「なら、コースを変えるか。お前ならコントロールも大丈夫だと思うし」

「ああ。まぁあいつもこのタイムでコースを変えるとか思ってるだろうがな」

「じゃぁ」

「ま、お前は構えてろ」

「わかった」


遙は戻り、言われた通り構える。サインは出してない。そして、凍夜は振りかぶり

光一も構えた。しかし、その振りかぶりかたが今までと違うフォームに

なっていた。


「おいあれ!」

「あれは、トルネード!!」


凍夜は振りかぶってから体を大きくひねり投げた。その玉は遙のミットに

吸い込まれたが、今までと衝撃音が違った。そう、明らかにスピードが

早くなっていて光一も動けなかった。


「な、なんだ今のスピードは?」

「い、痛ってぇ!まさかあいつまだ上がるのか?しかも重くなってやがる」


遙も凍夜のこの速さは聞かされていなかった。でもこれで光一を三振にして

凍夜の連続完全試合が成立した。そして、最弱校が最強校に勝ったという

歴史的快挙も達成した。もっとも得点したのは凍夜だけだが。


試合が終わり、グランドにいたギャラリーも帰り、凍夜達もしたくが終わり

帰ろうとした時、凍夜に光一が話しかけて来た。


「君、ちょっといいかい?」

「なんだ?」

「君、どこであんな速いまっすぐを?」

「どこでもない。全部自分でやってる事だ。誰にも指導された事はない。あ!

今は監督に一応言われてるがな」

「でも、それだけじゃないよね?ま、負けた僕が色々聞くのもあれだからね」

「じゃぁ聞くな。俺は性格は悪いんでね。誰かと仲良くなる気はないから

そのつもりでいな」

「もったいないな。君なら今日来てるスカウトからもすぐに声がかかるのに」

「興味ない。俺はプロなんかにはならん。なれんしな」

「君がなれなかったら誰もなれないが?」


凍夜はそれ以上離さずその場を去った。そして、翌日の朝、碧陽学園の

校門のところが大変な事になっていた。


地元のテレビや他のマスコミ、さらには野球関係の人などでごったがいしていた。

碧陽側も対応しているが、多すぎて対応できてない。するとそこに洋子が

やってきて洋子はそれを見て驚いていた。そして、当然だが、洋子にも取材を

しにやってくる。凍夜だけでなく、この野球部の監督は女性という事もあり

話題があふれているこの学園にマスコミが殺到したのだ。


洋子は普通に対応し、校内に入る。洋子はこの事を部員達にメールで

教えて、あまり見つからないようにグラウンドに行く事と伝えた。

遙達は言われた通り、裏口から入り、更衣室で着替えて朝練に向かう。

グラウンドに集まっているのに気づいたマスコミ達がグランドの周りを

囲む。


「あいつがいないぞ」

「今日は休みか?昨日あれだけ投げたからな」


目的の凍夜を探すが本人は見当たらない。


「監督、もしかして長峰に来ないように言ったんですか?」

「まぁ一応伝えたわ。これで彼が来たら朝から大騒ぎで他の生徒にも

迷惑がかかるからね」

「でも、すごいよな。あれはテレビだぜ」

「俺達映ってるのかな?」

「皆、浮かれないようにね。それと、これだけ注目されるんだから下手な

練習は見せられないよ。緊張を持って練習するように」

「ハイ」


洋子はマスコミ達に凍夜は来ない事教えて、一度解散させた。その凍夜は

というと病院に居た。


「すごいわね。テレビに出るなんて」

「出てない。勝手にやってるだけだろう」


病室で早苗と一緒にテレビを見ていた。そこでは昨日の風花戦の事が

伝えられ、凍夜がとんでもない怪物だという紹介があり、すでにプロの

スカウトも動いているという。


「今日はどうするの」

「面倒だが行くわ」

「そう。気を付けてね」

「俺は何も話さんよ」

「話さなくてももし、あんな所で発作が起きたら」

「ああそっちか。ま、その時はその時だ」


凍夜は軽い気持ちでそう言った。それから午後に登校し、忍者の様に

こっしり校舎に入り、教室に入った。しかし、騒がしいのは外では

なく中だった。

凍夜の事がテレビで取り上げられた事にすごいと思い、凍夜が来た瞬間

質問攻めをするが凍夜は全て無視をする。


それから放課後、ついに凍夜がグラウンドに現れ、マスコミ達がカメラを

一気に向ける。凍夜は遙とキャッチボールをする。


「すごいな。これが完全試合をする奴なんだな」

「関係ない。俺は有名になる為にやってるんじゃない」

「ま、そうだろうな」


その後、凍夜はベンチに座る。普段も普通の練習はせず、自由にやってる。それと

言うのもすでに凍夜は大人以上の体力を持っているので、する側じゃなく

教える側になっていたからだ。そのおかげか部員達は春ごろよりもだいぶ

体力がつき、それらしくなってきた。

そんな風景を見ていたマスコミ達は監督に何かを話した。それをしかたなく

洋子は承諾した。


「長峰君。投げようか」

「は?今日はしないんじゃないのか?」

「そのつもりだったけど、後で嫌味を書かれるのもあれだからね。いつもの

だけしようか」

「わかりました。ま、暇だったからいいけどな」


凍夜がベンチから出て、グローブをつけると周りがざわついた。


「投げるのか?」

「あの剛速球が見れるのか?」


目的だったものが見れるかも思い、カメラを凍夜に向けるマスコミ達。


「皆、集合」


洋子が全員を集め、あの練習をすると説明した。その練習とは凍夜対他の

部員全員という勝負で、全員が一打席勝負で凍夜に向かう。これで

凍夜は当然全員を三振にしている。これは凍夜の超速球を見てそれに

慣れさせるためだった。そのおかげで他の部員達は他行のエースの玉も

当たる様になっていた。


守備はつかず、打者だけが入り、遙が捕手をする。そうして一年生から

始めて、次々と三振を取り、一年は全員、遙を除いて三振にした。


「すげぇ誰にも打たせてないぞ」

「やっぱり本物だったんだ。これは今年のいや、これからの野球の宝を

今見ているぞ」


マスコミ達が騒ぎ出す。それには目もくれず凍夜はタンタンと投げる。

二年も終わり、三年も三島とこの部員のキャプテンでもあった工藤清隆くどうきよたかがバットには当てていたが、三振になった。

三年も終わり、全員が終わったと思っていたが、遙がまだ終わってなかった。


「三島先輩、変わってもらっていいですか。俺の番なんで」

「ああ。だが打てるのか?」

「あの玉じゃなければ打てると思いますよ」


捕手を三島に変えて、遙が打席に立つ。今までずっと凍夜の玉を

取ってきて、しかも、練習も一緒にしているので、遙は少し

自信があった。


「長峰、今日は打たせてもらうぞ」

「打てるなら打ってみな。打てたら明日の昼飯おごってやるよ」

「言ったな。なら、おごらせてやる」


遙は構えた。そして、凍夜も振りかぶって体をひねった。


「あれはトルネードだ」


他の部員達が驚く。あの構えの時にあの超速球が出されるからだ。

マスコミもそれは知っていたらしいが、それを見て沈黙した。

トルネードから投げ出された玉は一瞬で健司のミットに入った。


「痛ってぇぇ!これが超速球か。お前、よく取れてたな」

「取れますが、しばらく手にしびれはとれませんでしたよ」

「俺もこれを取れれば」

「頑張ってください。ま、先輩のミットに入る前に俺が

打てばいいだけですけどね」


遙は深呼吸をして構えた。その真剣な姿に周りに静かになり

グラウンドは静寂に包まれた。


そして、凍夜が投げた。すると、凍夜が投げるモーションと

同時に遙はもうバットを振りに入っていた。その次の瞬間

遙のバットに玉が当たった。でも、玉は後ろに飛び、フェンスの

間に挟まった。


「当てた!」


当たる事に驚く一同。遙は何度かバットに当てるが、前には飛ばず。

その打席は数分続き、そして、そこでとんでもない記録が誕生した。


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