第8話 めぐみの告白!あのセリフに凍夜は…
戻って来た凍夜は学園に来ていた。地区大会まであと三日に迫っていた
頃で、昨日のメジャーでの事は日本でも取り上げられていて、スタメン
いや、球団全選手を三振にした凍夜はもう、世界が注目する選手だった。
でも、凍夜は関係ないとばかりにいつも通りに屋上でサボっていた。
「またここでサボり?」
「今ここにいるあんたもじゃないのか?」
「もう昼休みだよ。それに、今日までじゃなかったけ?」
「それもサボってきた。メジャーもたいしたことなかったんでな」
「本当にあなた病人なの?」
ベンチで寝ている凍夜の上にかぶさって、胸を指でなでるめぐみ。
「普段は普通の奴と何もかわらん。だが」
「いつ爆発するかわからないって事よね」
「そういう事だ」
「それはもう治らないの?」
「無理だな。俺の体内はボロボロだ。俺がバカみたいに鍛えたから
保てるだけで普通なら死んでる」
「その鍛えがあったからあの超速球があるのね。ま、学生であんなの
投げれるなんて世界であなた一人でしょうけどね」
「それだけで十分だ。思い残す事はない」
「もしかして死のうとしてる?」
「ああ。だが、自分では死ねん」
「自分では?」
「何回やっても死ぬ事はできなかった。それは自分が弱かったからだ。死ぬ
事が怖くてな」
「あなたでもそういう時はあったのね」
「まぁな。でも、もう全てが無駄とわかったからな。やろうと思えば
今すぐにでも死ねる」
凍夜の言葉にめぐみは一度沈黙したが、すぐに返事をした。そして
あのセリフを口にする。
「死なせないわ。あなたは絶対必要な人よ。簡単には死なせない」
「どう止めるんだ?今この瞬間にも死ぬかもしれないんだぞ」
「そうだとしても私が全力で助けるわ。なんなら、私の心臓を
上げてもいい」
「それじゃお前が死ぬだろう」
「その方が世界の為よ。それに」
「……」
「あなたを気になり始めたから。最初は同情がすごかったけど、それ以上に
気になって来たの。だからあなたは死なせないわ」
「俺なんかの何を気になる事が……!?」
話している途中で凍夜にキスをしためぐみ。
「これであなたも私を気にするわよね。まぁそれでも無駄だって思うかも
しれないけど。でも」
「でも」
「それでも、私の為に生きてほしい。皆の為にも。あなたはもう一人じゃ
ないんだから」
「そうか。だが、病気は止められん」
「そうね。でも、長峰、凍夜君。私の為に生きて」
「お前の為?」
「そう。誰かの為に生きようと思えば死のうなんて思わなくなるから」
「本当に俺ができると思うか?」
「できるわ。そして、病気も克服できるって私は信じてるわ」
「とんでもないプラス思考だな」
「マイナス思考のあなたと一緒ならゼロになるわ。そこから私が
プラスにしてあげる」
「ま、頑張ってみな」
「ええ。だから最初にあなたに言いたいことがあるの」
「なんだ?」
「私を甲子園に連れてって」
「……」
当然凍夜がそれを知る事はないので、沈黙した。
「ま、あなたじゃそんな反応よね。でも、私は本気だから。それだけは
覚えておいてね」
「そうだな。先輩の唇は悪くなかったからな」
「ありがとう。したくなったいつでも言ってね。皆がいる所は無理だけど
今みたいに二人だけの時だったらそれ以上の事もしてあげるからね」
めぐみはもう一度キスをしてから屋上を去った。凍夜は何が起こったのか
わからなかったが、悪くはないかとも思った。
放課後、部活に出る凍夜。監督にアメリカの事を話すと飽きられるが
とりあえず地区大会に集中する様にと言われた。
練習の時、遙が今まで疑問だった事を凍夜に聞く。
「変化球?」
「ああ。お前の変化球を取ってみたいんだがダメか?」
「別にかまわんが、今はしない方がいいだろうな。マスコミもいるし」
「そうだな。じゃぁどうする?」
「あの場所でいや、俺の所でするか」
「俺の所?」
練習後、凍夜は遙を連れてある場所に向かった。それを見て遙は
茫然とした。
「おい、ここって」
「ああ。病院だ」
「なんで病院に?まさかここで投げるわけじゃ」
「ここの屋上は学校と同じくらい広いからな。そんで、誰もここに俺が
来るとは思わない」
「それはそうだが、こんな事で使わしてくれるのか?というか」
「いいから入るぞ」
「お、おい」
凍夜は普通に入っていく。遙もしかたなく入るが、やはり入っていいのか
もわからないので、おどおどしていた。そんな中、凍夜は何故か
看護婦や医者からあいさつをされたり、話したりしている。
屋上に行く前に凍夜は自分の部屋に入った。
「おい、ここ病室だぞ?誰のかわからんが勝手に入ったら」
「ここは俺の部屋だ」
「は?俺の?」
「ああ。ここは俺専用の病室だ」
「専用?何を言ってるんだお前?」
凍夜は何故か遙に自分の事を話そうと思い、ここに連れて来た。おそらく
めぐみに言われた事が凍夜を動かしているのかもしれない。
「本当かそれ?」
「こんなところで嘘なんて言って俺に得があると思うか?」
「そ、それはそうだが、それじゃお前はもうすぐ死ぬって言うのか?」
「そういう事だ。これはマネージャーには話してある。監督には言ってない
がな。あの人に言ったら止められるからな」
「当たり前だ。俺だって今すぐに止めたいくらいだ。でも、お前がいなかったら
俺ら、俺は甲子園に行けなくなる。どうすればいいんだよ」
「お前もどうして自分の事より俺の事を気にする?甲子園に行くかどうかは
あれだが、俺を止めたいってお前は言ったな」
「あたりまえだ。お前は俺の相棒だ。お前を死なせたくはない。でも
これ以上無理出せたらお前は」
「無理じゃない。俺のこれは体力には関係ないからな」
「でもよ」
「ほら、時間ないから屋上に行くぞ」
「おい長峰」
凍夜は病室を出て屋上に向かった。遙もしかたなくついていき、そこで
本当にキャッチボールを始めた。
少ししてから遙を座らせて、そして、変化球を投げた。それはフォーク
だった。遙は当然それを取れなかった。
「お前、こんなのも持っていたのか」
「だから言っただろ。俺にできない事はない」
「確かにな。だが、変化球は体に負担がかかる。投げさせるのは」
「本当に気にしすぎだなこいつら」
それから遙は帰ったが、凍夜はこのまま病室に残った。凍夜は遙に監督には
言うなと一応くぎはさしておいた。そうして数日経ち、ついに
地区大会が始まる日を迎えた。
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