第15話 優勝校のマネージャー東条みなみと出会う

試合が終わり、監督と凍夜は取材続きになり、ホテルに戻って来たのは夕方前に

なった。次の二試合目までは何日かあくのでその間に他の試合を見たり

するのだが、凍夜は一人地元に戻り、病院にいる事にした。


その病室で甲子園の他の試合を見る。


「他の試合でも満員か。正直、何が面白いのかはわからんが、それに

俺は参戦してるからな。さて、このあとの試合はどうするか」


今まではその場その場で動いていただけだが、凍夜は少しずつ試合を

考えるようになった。もちろん、体の事も考えての事だ。

甲子園の試合を見終えた後、プロの試合も見た凍夜。そこに早苗が

やってきた。


「へぇあなたが野球の試合を見てるなんてね」

「たまたまだ。暇だしな」

「だったら戻ったら?向こうの方が何かあるでしょ」

「そうだな。でも、次の試合まではかなりあくんでね」

「なんか試合が待ち遠しいみたいな感じね」

「ま、否定はしない。何もしないよりはいいからな」

「そうね。あのままずっとここにいるよりはよかったわね。もしかしたら

精神的にもいい方向に向いてるかもしれないし」

「精神的にはな。どうせ死ぬ事には変わりはない。それはもう諦めてる。だが」

「だが?」

「どうせなら最後ぐらいは笑って死んで見せるさ」

「!?」


凍夜を見て早苗は驚いた。笑うまでは行ってないが、それでも今までで

一番凍夜の表情がやわらいでいるように見えた。


それから凍夜は甲子園に戻り、遙達と合流して、スタンドで他の試合を

見学する。その時に洋子から凍夜の起用について話をした。


「打たせて取る?」

「ええ。あなたの記録がかかってるのはわかってるけど。ずっと三振で

球数が増えるとあなたに負担がかかるからね。だから打たせて取れれば

球数が減って負担も減らせるわ」

「まぁそれはそうだがな。それで客が怒らなきゃいいんだがな」

「確かに前のあれはすごかったよな」

「ああ。相手の学校、帰りのバスで色々投げられたそうだぜ」

「ニュースにもなってたもんな」

「やっぱり皆、長峰の三振を見に来てるって感じだよな」

「監督、やっぱりいつも通りの方が」

「まぁ確かにそれはそうね。本当に一度そうしちゃうと最後まで結果は

どうあれやらないと色々言われるからね。試合してるのはこっちなのに」


洋子は迷っていた。後が怖いのも事実だが、それより凍夜の負担を

減らしたいという事もあった。


そうしたいのもあるが、スポーツニュースなどで凍夜がとらあげられる

たびに連続記録を言われてしまう。地区大会からここまで一回も

負けてないのと、全試合パーフェクト、さらに世界新記録の球速という

異例ずくめの記録に誰もが期待していたからだ。


凍夜もその事は知っている。何せその番組に出ているアナウンサーの

天音絵里と知り合っていて、そういう情報を聞いているからだ。

そんな感じで数日が経ち、いよいよ明日、凍夜達の二回戦が始まる。


その前日の夜。凍夜はホテル近くの公園にやってきた。ずっとなれない

ホテルの部屋にいるより、外にいたほうが楽だった。

飲み物を買おうと自販機に行くとそこにはすでに誰かがいたが何か

困っていた。


「どうしようお金飲まれちゃったかな」

「何をしてる?」

「キャッ!びっくりした。あ!あなたは碧陽の」

「それより何かあったのか?俺も買いたいんだがな」

「えっと、飲まれたっぽいんだよね」

「なるほど。どきな」

「え!?」


凍夜は自販機を蹴った。すると、お金じゃなくジュースが出て来た。


「あんただいたんだね。試合の時もそうだけど」

「ま、出て来たんだからいいだろ。じゃぁな」

「あ!待って」


ベンチに座る凍夜に彼女がついてきた。


「横座っていい?」

「勝手にしな。俺のじゃないしな」

「じゃぁお言葉に甘えて。で、あなたは碧陽の長峰凍夜君よね」

「そうだが、あんたは?」

「私は名城高等学園めいじょうこうとうがくえんのマネージャー

をしている東条とうじょうみなみよ。よろしく」


シュートカットで活発そうな感じだが、豊満な胸をしている

みなみが握手をしようと手を出してきた。凍夜はそれを

無視して話す。


「名城、去年の優勝校だな。愛知代表だったか」

「そう。だから今年も連続で優勝する予定だったんだけどね」

「負けたのか?」

「いえ、一回戦は勝ったわよ。でも、決勝まで行ってもあなたに

投げられたらかなわないって、おそらく全高校野球人はそう

思ってるわ。ま、完全に諦めてはいないけどね」

「諦めてないならいいじゃないか。頑張って俺を倒すんだな」

「ねぇあなたはどうやってあんな力を手に入れたの?前に

バカみたいに鍛えたって何かで言ってたけど、本当にそれだけ?」

「それだけだ。他は何もしてない」

「じゃぁ才能かな。なんでうちに来てくれなかったの?」

「そんなの選べるか。それに、強い奴を倒してこその戦いだろ」

「それじゃあなたは逆の事をしてるんじゃないの?」

「俺はな。他の奴はそれが普通だろ」

「そうだけど、相手がでかすぎるのよね。ああ、せっかく

優勝校に入ったのに、甲子園での優勝を見れないんてね」

「入ったってことはお前も一年か」

「そう。だからここに入って甲子園に来たかったの。私も

野球が好きだからね。中学はソフトやってたし」

「そうか」


そんな感じでみなみと話していた。夜も遅くなってきたので

帰る事にした凍夜。


「じゃぁ試合でな。俺らと当たるまで勝てばの話だがな」

「他には勝つわよ。それに、さっきも言ったけど、私達は諦めた

わけじゃないからね。絶対あなたを倒すわ」

「それは楽しみだな」


凍夜はジュースを後ろ向きでゴミ箱に入れてその場を去った。


そして翌日。凍夜達の二試合目が始まる。


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