第2話 凍夜は全てを否定する
夜。自分の部屋でくつろぐ凍夜。今日、初めて部活を経験してみてこれが普通の
生活、普通の学生なんだと思った。
それは早苗と話した時も言われて、病室では味わえないものだった。
翌朝、凍夜は早い時間に学校に向かった。この時間なら生徒も普通の人も
まだ多くは動かないと思い、いつも早朝に出る様にしていた。
そうして学校につくと誰かに声をかけられた。
「お!早い登校だね」
「監督?監督こそなんでこんな時間に」
「なんでって朝練の準備をする為だよ。私は教師じゃないから部活の時間にだけ
来てるからね」
「そうか部活をすると朝も練習するのか」
「そうだよ。長峰君は中学で部活してなかったの?中学はだいたい強制参加
だと思うけど」
「そうなのか。悪いが俺、普通の人とは違う人生なんで中学は半年ぐらいしか
通ってないんでね」
「半年って。あの力といいあなたはいったい」
「俺は俺だ。ま、それももうすぐ無くなるがな。あ、その朝の練習は俺も
参加しないといけないのか?」
「ああ、今はまだいいわ。まだ仮入部にもなってないからね。仮入部になったら
参加してもらうわ。あなたにはすぐにでも試合になれてもらいたいから」
「了解です」
凍夜は教室に向かった。それから午前中の授業はサボって午後から参加したり
自由に動いている凍夜だった。
そんな感じで一週間経ち、凍夜達一年生は部活に参加できるようになった。
放課後、凍夜はグラウンドに向かった。するとそこには少しギャラリーが
集まっていた。今野球部が少し注目されているのだ。それは当然凍夜が
初日に野球部全員を三振にした事がすぐに噂で広まり、凍夜は有名人に
なっていた。元々容姿がビジュアル系みたいな髪や188cmの身長も
あって完全にモテるタイプなので有名になるのは必然だった。
監督も来て部活が始まる。今までは皆敵等に練習していたが、凍夜のせいで
監督が本気になったので練習も本格的になる。
その凍夜は監督とキャッチボールをしていた。監督が凍夜の玉を受けて
みたいと思ったらしい。
「じゃぁそろそろいいわよ」
「本当にいいのか?」
「もちろん。私が取らないと選手に教えられないからね」
「了解。じゃぁ行くぞ」
凍夜は振りかぶって投げた。そして、ミットに当たる衝撃音がグラウンドに
こだました。
「痛ったい!やっぱりすごいわ。こんなの一生で受けれるかどうかの玉よ!
あなたならメジャーも行けるわ」
「メジャーね。興味はない」
「そうなの?じゃぁプロとかは?」
「それも興味はない。なれないしな」
「あなたならなれるはよ。すぐに億プレイヤーになるわ」
「買いかぶりすぎですよ。俺は何の価値もない奴ですから」
「あなたはどうしてそんなに自分を否定するの?」
「そんなの決まってる。俺が嫌いだからです」
「自分が嫌い」
監督は頭に?を浮かべた。それから練習をする凍夜。もちろん適当にしてるが
それでも、誰よりも体力はあり、全員がばてている中あせ一つかかないので
凍夜は退屈だった。
着替えて全員が帰ろうとした時、キャッチャーで相棒でもある遙に言われて
遙の練習に付き合う事にした。それは遙が凍夜の玉を取れるようにするのと
その玉を打てるようになるための練習だった。
「まだするか?」
「今日はこのくらいにしよう。それにしてもどうしたらそんな玉を投げる
事ができるんだ?それに体力も」
「さぁなただ適当に鍛えてただけだ。野球を意識して鍛えてなかったからな」
「だから全体的にでかいんだな。うらやましいぜ」
「ほしいならくれてやる。ま、体の交換なんてできないがな」
「そうだな。漫画みたいに魂が入れ替わったりはするかもしれないがな」
「そんなのはありえん」
「長峰は否定派か」
「俺は全てを否定する。俺自身もな」
「自分もか?」
「ああ。俺自身もだ」
そうして凍夜は家に帰った。部活前は早苗より先に帰って家事をするが今は部活と
遙の練習の後という事もあり、早苗よりあとに帰っている。リビングで二人で
食事をする。
「どうだ部活は?」
「まぁ面倒だな。真面目な奴もいて付き合わされたよ」
「それはなによりだ。お前には楽しんでもらいたいからな」
「俺には楽しむ余裕はない」
「そうかもしれないが、せめて」
「無理だ。俺はどうせ死ぬ。死ぬとわかってて笑う奴なんかいやしない」
凍夜は席を立ち、部屋に戻った。ベッドに横たわり、野球のボールを
手に持つ。
「楽しむってなんだ。俺には感情なんかない。俺はただの人形だ」
凍夜は自分の人生に絶望を覚えていた。なので全てを否定していた。
そんな感じで一週間が経った頃、監督から練習試合をするという事を
聞かされた。
「皆、この練習試合は長峰君に試合の経験をさせる為にするものよ。だから
皆はしっかりフォローしてあげて」
「ならせるってそいつなら何もしなくてもなんでもできるんじゃ」
「試合は練習とは違うわ。長峰君が試合になれればほぼ無敵だからね」
「監督、俺は問題ない。どんな時でもいつも通りにできる」
「強い人は誰もそういうわ。でも、実際投げると違ってたっていうのが
オチよ」
「俺は違う」
「それならそれでいいけど、とにかく一試合やってみせて。それであなたが
使えるかどうかがわかるから」
「了解」
凍夜はしぶしぶ了承した。部員の中には凍夜を嫌う者もいた。特に上級生は
いきなり入って来た奴がとんでもない力を持っているのだからそれが
面白くないと思う奴もいた。でも、凍夜と同じ一年生達は凍夜の味方に
なっていた。凍夜のおかげで本当に甲子園に行けるかもと思っていたからだ。
とある昼休み、凍夜は屋上にいた。そこに遙とマネージャーのめぐみが
やってきて、遙にキャッチボールをしようと誘われ、しかたなく始めた。
「長峰君」
「なんすか先輩」
「君、どうしてそんなに暗いの?」
「俺の勝手だ」
「でもそれじゃ楽しめないでしょ?せっかくそんな力を持ってるのに」
「俺は楽しんでやるなんて事はしない。俺には感情なんてないからな」
「感情がないって、漫画みたいな」
「実際にあるんだよ。俺は、人形だ!」
「!?」
凍夜は少し本気で投げた。
「どうしてそこまで?」
「あんたには関係ない」
「関係なくはないわ。私はあなた達のマネージャーだからね。皆のケアを
するのも仕事よ」
「たいへんだな」
「そうね。あなたがいるからより大変になりそうね」
「なら、俺は抜けてもいいが」
「それはダメ。せっかく甲子園に行けるチャンスなのに」
「そんなに行きたいとか」
「それはそうよ。私は選手じゃないけど、野球が好きな人なら絶対に
行きたい場所よ。とくに選手はね」
「そうか」
「長峰、本気で投げてくれ」
「いいのか?」
「ああ。お前にも野球の楽しさをわかってほしいからな。本気で俺に
投げてくれ」
「ケガしても知らないぞ」
「!?」
言われた通り、遙が座ってから振りかぶり、投げた。それは今までで見たいことない
スピードの玉で、ようやく痛くなく取れるようになっていた遙でもその玉を
こぼしてしまい、手がしびれてしまった。
「長峰君。聞きたい事があるんだけど」
「なんですか先輩」
そんな感じで数日が経ち、いよいよ凍夜は初めて野球の試合をする日になった。
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