第28話 凍夜が倒れ、大騒ぎ!!
練習試合、今日の相手はそれなりの強豪校だが。今の碧陽なら恐れる程では
ない相手だ。碧陽は二年を中心にレギュラーでそろえるが、途中から
一年も使って行くみたいだ。
そして注目の凍夜はベンチスタートで、相手も凍夜が抑えでも出てくのは
わかっているので、その前に点を取ろうという作戦だった。
そうして試合は進み、8回まで碧陽が4-3で一点勝っている。途中から
一年を出したので、追いつかれそうになっていた。
「監督、満塁になっちゃいましたよ」
「そうね。でも、練習試合だし凍夜君を使うのもね」
「俺はいいですよ。正直暇なんで」
「ま、少しなら問題ないかな」
「あの、長峰先輩何かあるんですか?ケガとか?」
「ああ、ちょっとね。あなた達は心配しなくていいから」
凍夜の事は一年には内緒にしている。なので凍夜を先発に使わないのを
少しマネージャー達は不思議がっていた。
洋子が立ち上がり、審判に交代を告げに行った。そして、凍夜が出てくると
周りがいっきに騒ぎ出した。
「加奈子、凍夜さん出て来たよ」
「やっとだね」
翔子と加奈子も凍夜が出てくるのを待っていた。その凍夜はマウンドに
行き、投げていた一年生に声をかける。
「先輩、すいません」
「気にするな。練習なんだから、自分の力がどれぐらいかわかっただろ」
「ハイ」
「じゃぁ次は大丈夫だな」
「ハイ。あとお願いします」
凍夜はボールを渡させた。そのボールを握った瞬間だった。急に凍夜は
苦しみだした。
(まさか、ここでか。おさまれ、俺はまだ何もしてないぞ)
心の中で叫びながら凍夜は手を心臓に当てる。それを見て遙達、二年が
全員凍夜の所に向かった。
「長峰!」
「だ、大丈夫だ」
「おい、そうは見えないぞ。やばくないか」
「問題ない。さっさと戻れ」
「しかし」
マウンドに集まった二年達を見て一年生も行こうかどうか迷っていた。そこに
審判がやってきて凍夜に話を聞く。
「キミ、大丈夫かね?」
「ああ、問題な、い」
「!?すごい汗じゃないか。今日試合前に激しい練習を?」
「そ、それはしてないです」
「ならどうして」
長引いているタイムに相手のチームもギャラリーもマスコミも
ざわつき始めた。そこに洋子がかけつけた。
「凍夜君、交代よ」
「まだ、投げてないだろうが」
「今投げたら最悪の事に」
「……」
凍夜は沈黙した。手は心臓をおさえているが、顔を上げ、空を見上げる。
大きく深呼吸をして少し目を閉じた。10秒ほど沈黙した後凍夜が
目を開けた。
「監督、一球でしとめる。次のラストは他の奴に任せていい」
「一球って、確かにフルカウントだけど、もし、相手がバットに
当ててきたら」
「それはない。遙」
「なんだ凍夜」
凍夜は遙に耳打ちをした。遙もそれなら大丈夫と監督に言い、とりあえず
皆元に戻った。審判も説得させ、ようやく凍夜が投げる。しかし、本当は
まだ凍夜は痛みをこらえていた。
「たった一球だ。そのあと病院に行く。そうすればおさまる」
小さい声でそうつぶやいた後、凍夜がその一球を投げた。相手は
当然ストレートで来ると思い、それに合わせてバットを振った。
しかし、バットは空を切り、ボールは遙のミットに吸い込まれた。
しかも、その球はストンと下に落ちた。そう、凍夜はフォークを
投げたのだ。
その事にここにいた全員が驚いた。その速さと落差に。そして、凍夜が
変化球を投げれることにも驚いていた。そうして文字通り一球で
凍夜は終わらせ、次の回は別の投手が投げ、そして試合は碧陽の勝利で
終わった。
だが、その終わった瞬間、ベンチでバタンという大きな音が響いた。
洋子がその音の方を見ると、そこに、倒れた凍夜の姿があった。
「凍夜君!!」
部員全員がかえよった。それを見ていた翔子達も。それから洋子が凍夜を
病院に連れて行った。その事はマスコミもとりあげ、病院の前にも
取材陣が殺到した。
その事はすぐに夜のニュースなどで取り上げられ、色んな所で騒ぎに
なった。その深夜、凍夜は目を覚ました。
「ここは、病室か、外が暗い……そうか、倒れちまったか」
凍夜はテレビをつけた。ちょうどニュースが流れていて、そこには
倒れこんでいる自分の姿があった。
「まずったな。しかも、この時間まで俺が起きなかったとなると
そうとうさわいだだろうな」
凍夜は何気にスマホを見た。そこには皆からのメールと翔子達からの
着信が多くよせられていた。
「あいつらにも心配かけたな。あとでメールしとくか。とりあえず今は」
凍夜は早苗に連絡した。ここは早苗のいる病院ではあるが、自分の部屋では
なかったので、早苗に移動できるかどうかを聞くために連絡した。
数分後に早苗がやってきた。
「気が付いたか」
「ああ。すまない心配かけた」
「まったくだよ。しかも、マスコミ達にも迫れてな。まぁごまかしてはあるが」
「すまない。めぐみは?」
「めぐちゃんは来ないように言ってある。ここで来たら、もっとさわがれる」
「そうだな」
「テレビもお前の事で大騒ぎだ。将来大事なメジャーリーガーが倒れたってね」
「メジャーなんか行くか。行く間に死ぬ」
「凍夜!」
「悪い。この呪文は言わない約束だったな。なぁ、本当に治らないのか?」
「残念だがな。本来ならとっくに終わっててもおかしくはないぐらいだ。だから
今は一日でも、一秒でもお前には長く生きていてほしい」
「ああ。俺もあいつらの為に生きる。もう、俺一人の体じゃないからな」
「今日はもう、寝なさい。痛みはないでしょ」
「ああ。おさまってる」
「それじゃお休み」
「ああ。お休み」
早苗は部屋を出た。凍夜も今日はこの部屋で寝て、明日、自分の部屋に
うつることにした。そうしてその翌日も、世間は凍夜の事で話題が
つきなかった。その凍夜も自分の部屋でテレビを見ていた。それを見て
凍夜は絵里に連絡をした。絵里が来たら、外で話をすると言ったのだ。
そしえ絵里が来て、凍夜は着替えて、早苗に許可をもらい、外に出た。
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