第16話 凍夜の作戦。悪には悪を!?

二試合目、相手は甲子園の常連校で有名な学園だ。どちらの意味でも有名で

少し洋子は警戒していた。


控室でのミーティングの時、洋子がその事について話していた。


「敬遠?」

「ええ。このチームはよく強打者にはするのよ。もちろんそれが作戦だから

された方は嫌だし、見る方も嫌だけど、それを平然とできるのもメンタル

が強い証拠よ。もしかしたら嫌々やってるかもしれないけど」

「それでよく続けれるな」

「やっぱり誰でも甲子園には来たいからね。勝つためならって感じかな」

「勝てればか」

「それで長峰君。おそらく君は全部敬遠されるかもしれないけど」

「俺はかまわん。走るだけだからな」

「それはダメ」

「先輩」

「あまり走りすぎるのはよくないわ。絶対ダメだからね」

「わかったよ。じゃぁキャプテン」

「な、なんだ」

「点取ってくださいね」

「簡単に言うな。でも、お前の負担を軽くするには俺達が取らないとな!

よし、絶対長峰なしで点を取るぞ」

「おおぉぉぉ」

「頼もしい事だ」


そんな感じで試合の方針が決まり、今、練習をしている。相手の練習になり

凍夜達はベンチで相手を見る。


「なんか暗いな」

「やっぱり悪い方で来るのかもね」

「監督?」

「ちょっと嫌な噂を聞いたから」

「噂?」

「相手の監督がどうやら評判悪いみたいなの。だから選手達は皆、おびえて

やってるって」

「そんなのどこから?」

「ま、ちょっとね。とにかくあなたは気をつけてね」

「俺に心配はない」

「だといいけどね」


洋子はすごく不安になっていた。それが空にも現れたのか、曇りから少し

雨が降ってきてしまった。

それでも、小ぶりなので試合は始まる。サイレンがなり、選手達が

グラウンドに出る。

整列をし、ポジションに散る。


今回は先行が碧陽なので凍夜が一番として打席に向かう。スタンドから

大声援と拍手が巻き起こる。もう、凍夜の番は全てこの状態だ。

そして、当然、それをよく思わないのもいる。それが今回の相手だった。


相手の第一球を投げて来たが、その玉が凍夜に向かって来た。凍夜はそれを

よけた。普通の所ならただのすっぽ抜けや、一球目の緊張で終わるが

今夏の相手は悪い評判がある所だ。当然客達はそれがわざとだと思い

激しくブーイングをする。

そんな中、相手は謝らずに二球目を投げる。今度はストライクに入った。

普段の凍夜ならその一球でホームランにするのだが、少し考えをして

いたのでそれを見送った。


(さて、どうするか。俺から仕返ししてもいいんだがな)


そう考えていると次の玉が来て、それもまた凍夜に向かって来たので今度は

ギリギリでよけた。再び大ブーイングがおこる。こんな甲子園もめったに

ない。しかも、まだ一回の一人目だ。


碧陽ベンチでもどうしようか洋子が悩んでいた。


「監督、あれ絶対わざとですよ」

「わかってるわ。でも、確証はないの。あれはあくまでコントーロール

ミスの可能性もあるから決めつけれないわ。悔しいけど、ここからじゃ

何もできないわ」

「凍夜君」


めぐみも他の部員も心配する中、相手の投手が投げて来た。すると

凍夜はボール玉をカットしファールにした。それからずっと凍夜は

カットし続ける。それがなんと一打席目にして15球も続き、これも

大会史上初の事だった。そのせいか相手の投手がもうバテはじめて

来ていた。凍夜は相手の体力を削る作戦にしたのだ。


そうして、なんと20球まで続いた時、相手が無造作に投げた球が

凍夜の頭に向かって来た。そして、凍夜はその玉に当たってしまい

その場に倒れた。


「長峰君!」

「凍夜君!!」


ベンチから洋子達が全員飛び出してきた。相手投手はもう疲れ切った

状態で、何もしない。当然、審判が投手に退場を言い渡し、さらに

チームを棄権させて、なんと甲子園初、一打席も進まずに試合が終了

してしまった。相手チームは平然とただその場を去っていくのを見て

客達は今にも暴挙に出ようと言う感じだったが、警備がそれを止めた。

でも、この事は当然ニュースになり、相手チームは甲子園出場停止

処分がくだされた。


その頃、凍夜は近くの病院に運ばれていた。凍夜が目を開けたのは

夜になっての事だったが、実は、凍夜はずっと気づいていた。

そう、相手により倍返しする為にわざと当たったのだ。もちろん

ヘルメットに当たっていて、相手の玉の威力は疲れて来ていたので

どれぐらいかはわかっていた。だから凍夜はわざと倒れた。


「さて、どうなったかな」


凍夜はテレビをつけた。どこの局も今回の事を大々的に取り上げられて

いて、凍夜を心配する声が永遠と流れていた。それにはプロの選手や

メジャー球団の声もあった。


「これじゃ俺の方が悪役みたいだな。ま、そうだけど」


今までの凍夜ならなんとも思わなかったが、今の凍夜はこんな事してしまったのを

少し後悔してる自分がいた。でも、これはどう考えても相手が悪いので

誰も凍夜を攻める者はいない。凍夜がわざとした事など誰も知らないのだから。


少しして、病室のドアを叩く音がした。やってきたのは洋子達だった。


「長峰君!気が付いたのね」

「ああ。っていうか大勢で来るんじゃね。病院だぞ」

「ごめん。でも、皆心配だったから。凍夜君をここに運んだあとも

誰も帰ろうとはしなかったんだけど、あまり長くいてもって監督に

言われて一度ホテルに戻ったの」

「そうか」


部員達にも不安にさせたのを知って凍夜はわざとだという事を墓場まで

言わないでおこうと決めた。


それから洋子から相手がどうなったのかを聞いたり、テレビで凍夜の

状態がどうなっているのかを聞かれたりした。凍夜は明日会見を

すると言った。最近、絵里と知り合い、プロの会見とかも見る様に

なっていたのでやってみたいと思ってたのだ。なのでそれをする為に

凍夜は皆が帰った後、絵里に連絡をした。


「長峰君!?大丈夫なの?」

「ああ。平気だ。さっきまで監督達と話してたからな」

「よかったわ。心配したんだからね」

「悪かったな。それで頼みがあるんだが」

「頼み?」

「ああ。明日会見しようと思ってな。もちろん、あんたんとこを優先に

してやるが」

「明日って動いて大丈夫なの?」

「問題ない。メットに当たっただけだからな」

「でも、気絶するほどなんじゃ」

「その事も話してやるから、頼めるか?」

「わかったわ。でも、無理はしちゃだめだからね。あなたはまだ子供なんだから」

「わかったよ。じゃぁ頼むな」


絵里にまだ子供なんだからと言われた時、俺は大人にはなれないんだがなと

言いたかったが、やめた。

そうして、翌日の夕方頃、凍夜はホテルのロビーで会見を開いた。当然

その事や運ばれたことは早苗には言ってある。会見は凍夜がソファーに

座って話すスタイルで行われた。

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