第21話また神に注意された

「ちょっと良いかのう」


田んぼの世話をしていると、イズナが声をかけてきた。

びっくりするのでいきなり声をかけてくるのはやめてほしい。

田んぼに突っ伏しそうになったじゃないか。

ただでさえ非常識な存在なのだから、自覚を持ってくれよな。

俺は幽霊も苦手なのだ。平静を装い、返事をする。


「どうかしたのか? イズナ」

「うむ、実は先日、また次元の歪みを感知してのう。おぬし、また何かやりおったか?」


じっと俺を見つめるイズナ。

うっ、しまった。カミーラを倒した時のことか。

バグ技を使わない為にレベル上げに行ったのに結局使ってしまったのである。

運が良ければバレないか……なんて思ってもいたが、やはりダメだったようだ。


「確かにある程度は目を瞑るとは言ったが、それにも限度がある。わらわも一応この地を見守る神なのでな。次元を揺るがすような『力』は世界を崩壊へ導く可能性もある。あまり好き勝手やられると困るんじゃがのう」


さて、どうする。なんとか言い訳を考えないと。

イズナの気を引けそうなものは……と考えながら、俺は思いついた言葉を出す。


「あーいや、その……俺としても仕方なくだったんだ。かなりヤバい相手と戦っていてな」

「なんと、大賢者であるおぬしが苦戦するような相手が、この近辺におったというのか?」


俺の言葉にイズナは目を丸くする。

何を勘違いしてるか知らないが、そんなものいくらでもいるぞ。

サンドマン相手にも多分普通に苦戦する。


「神よ、我が主は次期魔王と戦っていたのだ」


いきなり会話に入ってくるジルベール。

どうやらいつの間にか田んぼのへりの木陰にいたようだ。


「彼奴はこの近辺にて潜伏、世界を支配する為に眷属を増やし力を蓄えておってな。それを主が看破し、根城へと乗り込んだのだ。迎撃してくる眷属どもを賢者の秘薬でなぎ倒していった。そして彼奴が現れたわけだが、その力は凄まじく、支援魔法を貰った我をも凌駕する強さだった。主もあわやというところまで追い詰められておったのだ。『力』の使用もやむを得まい」


ちょ、大分脚色してないかジルベール。

確かにそれっぽい感じではあるが……カミーラはただ魔王になりたいだけだし、俺はそれを看破したわけでもないし、蚊を殺虫剤で駆除してただけなんだが。

あまりに大きく言い過ぎである。

いくらなんでも嘘っぽくないか?


「なんと、次期魔王がこの地におったというのか。であれば『力』の使用もやむなしかもしれぬな……しかし、ううむ……」


ってあっさり信じるのかよ。

イズナは目を丸くして頷いている。

確かに嘘は言ってないが……あまりに純心すぎる。

やはりあれだな。嘘を見破る能力には頼らず、自力で人を疑い信じなければ正しい判断はできないのかもしれないな。

とはいえチャンスだ。イズナが気を取られている隙にDIYスキルで……と。

アイテムボックスから余った羊毛を取り出し、ささっと加工する。


「イズナ、詫びと言っては何だが、これを受け取ってくれないか?」

「なんじゃ? 一体……むむっ!?」


俺が手渡した物を見て、イズナは目を見開いた。

その小さな手に握られているのはミニチュアのイズナ人形。


「これは……わらわの人形か?」

「あぁ、羊の毛で作ったんだ」


そう、羊毛フェルトというやつである。

豊穣神イズナには様々な供え物をして豊作を願うことが出来るのだが、一番低コストでそこそこ効果があるのが人形だ。


「おおーっ! これは可愛らしいのう! 素晴らしい出来栄えじゃ!」


イズナは自分の姿を模した人形を手に持ち、嬉しそうに目を輝かせている。

俺の視線に気づいたのか、イズナは頬を赤らめ人形を後ろ手に隠し、咳払いをした。


「お、オホン! ……仕方ないのう、目を瞑るのは今回だけじゃぞ」


イズナは顔を赤らめながらも、人形を大事そうに握っている。

どうやら気に入ってくれたようだな。困ったらワイロは基本である。

それにしてもチョロい。チョロすぎてちょっと心配になってくるぞ。

まぁ俺は別に困らないからいいけどな。

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