第3話バグ利用は危険?

 チュンチュンと鳥の鳴き声で目が覚める。

 俺はゆっくり起き上がると、大きく伸びをした。


「くあー……よく寝たぁ……くしゅん!」


 大きなくしゃみをしてしまう。

 夜は寒かったからな。布団は材料がなくて作れなかったので、草を細かく編み込んだゴザみたいなものを代用したが流石に寒かったか。

 この世界にも四季はある。今は気候からして4月くらいだろう。昼は暖かいが夜は肌寒い。

 ちなみに現実世界では12月、昨日のは夢で起きたらいつもの日常に戻っていることを少しだけ期待したが、どうやらそう甘くはないらしい。

 はぁー……やはりここで暮らしていくしかないんだな。

 覚悟は決めたはずだが、弱音が漏れてしまう。


「いかんいかん、腹が減ってるから気分が落ち込むんだ。何か食おう」


 俺の朝食はいつもコーヒーと高級生食パンなのだが、そんなものがあるはずもない。

 贅沢言わずに自力で調達しなければならないだろう。

 というわけでDIYスキルで釣竿を作ることにした。


「……しかしこんなので釣れるのか?」


 ゲームでは餌も何も必要ないが、大丈夫なのだろうか。不安だ。

 まぁミスってリスクがあるわけでもなし、まずはやってみるとするか。

 川べりをゆっくり歩いて魚の影を探す。

 あまり速く動くと魚が逃げてしまうので、その辺注意が必要である。……おっ、発見。

 魚の前方目掛けて向かって針を投げ込む。ほいっとな。

 すると気づいた魚がツン、ツンと針をつついてくる。

 だがまだ我慢だ。食いついてくれないと逃げられてしまう。

 ……、……、……、いまだ!

 タイミングを見計らって釣竿を上げると、見事魚がかかっていた。


「おっ、アユだ」


 いいのが釣れたな。幸先いいぞ。

 清流に住む川魚で、塩焼きにすると美味いやつだ。

 このゲームでは釣りや猟ができるのだが、それで捕らえられるのは実在する様々な種なので現代人である俺でも抵抗なく食べられる。

 謎の魔物肉とか食べる気がしないもんな。


「一匹じゃ足りないな。もう少し釣っておこう」


 また釣竿を垂らし、魚を釣り上げる。

 フナ、コイ、ドジョウ、空き缶……ハズレを引きつつも、何とかアユ三匹を釣り上げた。

 ちなみに残りはリリースした。

 ゲームでは捕まえた生き物を飼育したりもできるが、今は俺自身の面倒を見るので精いっぱいだ。


「さて、食べるとするか」


 DIYスキルで焚火を作る。

 これは序盤で作れる料理道具で、捕った生き物を焼いて食べることができるのだ。

 ちなみに火は摩擦熱で起こす。STRが低いと中々付かないが、バグのおかげであっさり火がついた。


 木の枝を突き刺したアユをかざすと、パチパチと脂が爆ぜていい匂いが漂ってきた。

 アユを火から離し、フーフーと息を吹きかけて食べる。


「美味い……けどちょっと物足りないな」


 塩とか醤油とかが欲しいところだが、贅沢言っても仕方ない。

 ていうか結構焦げてるし。直火焼きって地味に難しいんだな。

 とはいえ空腹は最高のスパイスだったようで、三匹のアユはあっという間に俺の腹に収まった。


「ふぅ、腹ごしらえ完了。さーて、本格的に始めるとしますか」


 はっきり言って足りない物は沢山ある。

 頑張ろう。俺の快適なく生活の為に。うん。


 何はともあれ、まずは生活基盤を整えねばならない。

 衣食住が揃ってこそ人間らしい生活が送れるというものだ。

 今の俺は部屋着に使っていたジャージ、家には何もなし、食べ物は魚という無人島生活並みである。

 これはいけない。早急に文化レベルを上げなければ。

 釣りや猟でも食べ物を得ることは可能だが、野菜や果物を手に入れなければ栄養失調になってステータスが下がってしまう。

 バランスの良い食事が大事ってわけだ。

 別に健康厨ってわけじゃないが、ある程度はバランスの良い食生活を送りたいと思ってるしな。


「というわけで今日は素材集めに加えて食料を探してみるか」


 向こうに見える森では麦や稲、芋などの自生している野菜が手に入る。

 それらを手に入れ畑を作れば、危険を犯す事なく食べ物にありつけるというわけだ。

 だが森は少々厄介だ。木が邪魔になって司会が悪いし、運が悪ければ不意打ちされたりするかもしれない。

 いくらSTRがバグってても、俺自身は戦闘の素人。

 接近されると敵の攻撃を受ける可能性は高い。痛いのは嫌だ。


 全ステータスをバグらせる方法もあるが、この手のシステムに介入するバグ技はやり過ぎるとフリーズする可能性が飛躍的に高まると攻略本とかで書いてたしな。

 そうなった場合、俺の身に何が起こるかは想像もつかない。

 死ぬより恐ろしい目に合うかもしれないしな。例えば永久に動けなくなるとか……想像しただけでブルっちまうぜ。

 故に現状のSTRだけをバグらせた状態で、周囲に気を付けながら行くべきだろう。

 というわけでステータスを確認してみる。


「……なんだこりゃ?」


 イトウヒトシ

 レベル9

 STR1

 VIT21

 AGI1

 INT1

 DEX1

 LUK1

 ステータスポイント26


 バグった値が何故か元に戻っている。

 ……危ないところだったな。

 このまま戦闘になったら死んでいた。

 寝て起きたらリセットされたのだろうか。これからはこまめにチェックした方が良さそうだ。

 俺は例の手順でまたSTRをバグらせる。


「……っ!?」


 一瞬、目の前がぐにゃりと歪む。

 だがすぐに戻った。何だったんだ今のは。

 恐る恐るステータスを見てみると、正常にバグっていた。


 イトウヒトシ

 レベル9

 STR{}+{{L+S+=A=`I"#‘GA+Z*+SA{=

 VIT21

 AGI1

 INT1

 DEX1

 LUK1

 ステータスポイント26


 ……よし、ステータスは正常にバグっている。

 それにしても今の眩暈はまさかフリーズしかけたとかだろうか。

 だとしたらやはりバグ技を乱用するのは危険すぎるな。

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