第16話蚊を駆除しよう

「あーくそ、また失敗か……!」


 一人ごちる俺の前には木材の残骸が幾つも転がっていた。

 これはDIYスキルで糸紡ぎ機を造ろうとして失敗したものだ。

 羊の毛は単体では使えないからな。紡いで糸にして、服なり毛布なりにしなければならない。

 それには糸紡ぎ機が必要なのだが……なかなか難しいのである。


 DIYスキルがステータスに依存するというのは前に言った通りだが、ある程度細かいものを作る際はそれなりのDEXが必要とされる。

 今まではSTRを上げれば何とかなったが、糸紡ぎ機のような細かな機械を作る場合はやはりDEXを上げる必要があるようだ。

 え? 家も十分精密だって? ……確かにその通りだが、家くらい大きければ力任せにはめ込めば大体何とかなるものだ。寿命は知らん。


「しかしなぁ……」


 ため息を吐いてステータスを開く。


 イトウヒトシ

 レベル11

 STR{}+{{L+S+=A=`I"#‘GA+Z*+SA{=

 VIT21

 AGI1

 INT12

 DEX26

 LUK1

 ステータスポイント4


 そう、もうDEXには振れるだけ振っており、ステータスポイントは余ってない。

 簡単な工作機械を作るだけでも最低50はDEXが必要だ。

 またバグ技を使って上げるという手もあるがイズナがまた文句を言ってきそうだ。

 あれでも一応は神だし、出来れば接触はしたくない。

 バグったら何が起きるかもわからないしな。

 ならば何処からどうやって捻出するか、という話なのだが……


「いや、結論は出てるんだけどね」


 わざわざ口にする必要すらないが、レベルを上げれば全て解決する話である。

 だが戦いたくはない。というか生き物好きの俺としては、自分の手で命を奪うのが嫌なのだ。

 俺は洗濯物に付いたカナブンですら、出来れば殺したくない男である。

 ただし蚊、てめーは別だ。

 可愛くないし、勝手に人の部屋に入ってきて、ブーンと耳障りな音で飛び回り、人の血を吸って痒くして、病気まで伝染させる。

 人間を殺している生物ランキング堂々の第一位。

 まさに人類の敵と言っても過言ではあるまい。

 ゴキブリはギリで許せても蚊は許せない。

 俺が唯一積極的に殺す生き物である。


「……いや、待てよ。蚊……蚊か……」


 そういえばこの近くにアレがいたか。

 レベルアップ問題、なんとかなるかもしれないな。


 ◇◇◇


 というわけでジルベールの背に乗って辿り着いたのは、小さな洞窟だ。


「主よ、こんな所に何の用なのだ?」

「蚊退治さ」


 この洞窟にはデビルモスキートという魔物が出現する。

 その姿はまさしく蚊、そのもの。

 1匹1匹は小さく弱いが、その分回避率が非常に高く、攻撃力こそ低いものの毒攻撃を仕掛けてくる。

 厄介な性質の割に経験値も少なめという嫌がらせみたいな魔物である。まさに蚊。

 それが大量に発生する地獄のようなダンジョンがこの洞窟なのである。

 洞窟の奥からは微かに蚊の羽音のような音が無数に聞こえてくる。


「おーおー、沢山いるねぇ」

「ふむ、羽虫を狩りに来たのか。確かに奴らの回避率は高いが、大賢者である主なら魔法で楽勝であろう」


 いや、大賢者でもないし魔法も使えないのだが。

 とはいえもちろん手で叩き潰して回るなんてことをするつもりもない。

 その代わり、秘密兵器を作ってきたのだ。

 アイテムボックスから取り出したのはDIYスキルで作った巨大ジョウロである。

 それを装備し、構える。


「ジルベール、少し後ろに下がっていろ」

「むぅ、何をする気だ? 主よ」

「まぁ見てな」


 ジョウロを傾けると、先端に開いた数個の穴から細かく分かれた水がサーっと流れ出てくる。

 それをすいっと辺りに振りかけた瞬間である。

 岩の影や隙間からものすごい勢いで黒い塊が飛び出してきた。

 蚊、というかデビルモスキートの大群だ。

 うげっ、無茶苦茶出てきやがった。

 思わず後退る俺の前で、デビルモスキートの大群は狂ったように飛び回っている。


「主よ、とんでもない大群だぞ!?」

「い、いや……大丈夫だ」


 一瞬びびったが、デビルモスキートの動きは俺を狙おうというものではない。

 無軌道で無秩序、ただ乱雑に飛び回っているだけだ。

 これは俺を襲おうという行動ではなく、苦しみ、のたうち回っているのである。

 もちろん俺を噛む余裕のあるデビルモスキートはいない。


「羽虫どもが苦しんでいる……主よ、この水は一体何なのだ?」

「虫を殺す薬さ」


 ――そう、ジョウロで撒いたこの液体は強力な殺虫剤。

 雑草の中から使えそうなものを抽出し、DIYしたのだ。

 なお製薬の際に必要案ステータスはINT。

 複雑な調合なものほど高いINTが要求されるが、このくらいの殺虫剤ならある程度でいい。

 一応INTに少しだけ振って挑戦したが、数十回の失敗の後何とか完成した。

 バグ技は出来るだけ使いたくないからな。


「虫を殺す水とは……また我の見たことのない魔法だな。さすがは我が主だ」


 魔法じゃなくて薬だけどな。説明するのも面倒だし、放置してどんどん行こう。

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