第15話商売人根性を見た
「羊の解体、終わりましたよヒトシ様ーっ!」
夕方頃、田んぼに水を入れているとキャロが両手を血塗れにして駆けてきた。
うっ、グロい。
女の子がそんなはしたない格好で外を走るんじゃありません。
「羊の毛も刈り終わりました」
「あ、あぁ。ありがとう」
「よかったら解体したものを見ていきますか? とっても色艶が良いお肉なんですよ」
「……それは遠慮しておこう」
解体直後の肉なんて見せられてもどう反応していいかわからない。
スーパーでパックされてる肉ならともかく。
「そう、ですか……」
俺の答えにキャロは沈んだ声を返す。
そんなしょんぼりした顔されても見にいかないからな。
……まぁでもフォローはしておくか。
「夕食は楽しみにしておく」
「はいっ!」
俺の言葉にキャロは元気よく返事をするのだった。
その夜の食事は薄く切った羊の肉を鉄鍋で焼いたものだった。
十分に焼けたものをキャロお手製のタレに浸けて、ぱくっと一口で食べる。
「くぅーっ! 美味ぁーい!」
魚も野菜も嫌いじゃないが、やはり肉こそ至高だ。
脂のたっぷり乗ったジューシーな旨味は他の食材とは一味違う。
ご飯があればもっといいんだがなぁ。
というかキャロの調理の腕がいいのかもしれない。
何度かジビエ料理を食べたことがあるが、店で食べたものに比べて、その辺で買ってきて自分で焼いたものは硬いし臭いしでとても食べられたものではなかったからな。
三種のタレもどれも味が違って飽きが来ない。うーん、いい仕事しているな。
「お口に合ったようで幸いです」
「うん、最高だ!」
肉を噛み切りながら何度も頷く。
食事係を任せてよかったな。俺一人じゃこうはいかない。
ジルベールもよほど美味いのか、尻尾を振りながらガツガツと骨ごと食べている。
そんな俺たちを見ながら、キャロは嬉しそうに微笑むのだった。
「ふぅ、腹一杯になったな」
満腹になった腹を撫でながら、俺は大の字に横たわる。
「それはようございました。ところでヒトシ様、羊の毛皮ですが今お出ししてもよろしいですか?」
「あぁ、そういえば」
そもそもメインの用事はこれだっけ。
キャロは自身のアイテムボックスから刈り取った毛と皮を取り出した。
うおっ、結構デカいな。
これなら布団の一枚や二枚作れそうだ。
「ありがとう。色々と助かったよ」
「いえいえ滅相もありません! この程度大したことではありませんので! それよりヒトシ様にお仕事を頂けて幸いでございます!」
俺が礼を言うと慌てたように手を振って否定する。
しかしキャロはいつもやたらと腰が低いな。
……はっ、もしかしてこの程度は仕事のうちに入らないから、もっと仕事を寄越せということだろうか。
流石は商人。今のうちに仕事を確保して、自分の立場を確立しようとしているのだろう。
何でもいいからまずは誰も手をつけてない仕事を探すのが商売の基本であり理想である、と何かの本で読んだことがある。
今、この地は何も発展してないまっさらな状態だ。
ライバルもいないし、インフラもないし、何をするにも自由。
商人としてはこれほど血が騒ぐ状況もないだろう。
俺の許可さえとればやりたい放題なのだから、その為には頭なんかいくらでも下げられる、といったとことだろうか。
まぁ俺としてはただ快適な生活が享受出来ればいいだけだし、その手の面倒なことはキャロに全部任せるとしよう。
「このような雑務にヒトシ様のお手を煩わせるわけにはいきませんからね。ヒトシ様がその御力でこの地を大きくして頂ければ、勇者様の使命もきっと果たせます。その為にも私はもっと働かないと!」
キャロが何かブツブツ言っている。やる気があるのはいいことだ。
ともあれ羊の毛をゲットしたし、布団を作ろう。
今日の夜は冷えそうだ。
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