第10話巨人から逃げよう

「大量であったな。主よ」

「あぁ、ちょっと予定より多く捕まえてしまったな」


 まぁ逃げたり何なりで減るかもしれないし、多い分には構わないか。

 ともあれそろそろ戻るとしよう。

 羊の首に取り付けた縄を連結し、ジルベールに繋いで引っ張ることにする。

 抵抗するかと思ったが羊は意外と従順で、特に苦もなく連れ帰ることが出来た。

 羊は群れるのを極端に好み、先導者に付いていく習性があるから家畜化が容易だったという話を聞いたことがある。

 その辺りゲームでも取り入れているのかもしれないな。

 そんなことを考えながらジルベールの背に揺られていると、ずぅん! と地面が揺れた。


「わっ! な、なんだ!?」


 驚いて音の方を振り向くと、そこには一つ目の巨人がいた。

 あれはギガント、山に出現する巨人の魔物だ。

 ずぅん! と更に一歩、こちらに踏み出してくる。

 どうやら俺たちを追ってきているようで、少しずつ距離が縮まっていた。


「くそ、羊に合わせて速度を落としてるからな……このままじゃ追いつかれるか」

「どうする主、全力で逃げるか?」


 ジルベールが本気を出せば簡単にぶっちぎれるだろうが、羊を諦めることになる。

 せっかく捕まえたのにそいつはごめんだ。

 仕方ない、ここは俺が何とかするしかないか。


「俺が迎撃する。ジルベールはそのまま歩いていろ」

「ふむ、主のお手並み拝見といこう」


 アイテムボックスから石を取り出し、構える。

 漬物石くらい大きな石だ。

 STRバグのおかげで重さは感じないし、これだけ大きければ当てられるはず。


「ってなわけで……どりゃあ!」


 ひゅるるるる、と風切り音と共に、石はあらぬ方向へ飛んでいく。

 うぐ、バランスが悪かったか。

 ジルベールの背に乗りながらでは身体が安定しなかったようだ。風の抵抗もあるだろうし。

 俺が投げた石は狙いを完全に外し、ギガントのはるか手前に落ちた。

 くそ、外れたか。もう一発……そう思った直後である。

 ずどぉぉぉぉぉん! と大爆発が巻き起こる。

 土煙と共に巻き上がる石弾がギガントの巨体を襲う。


「グォォォォ!?」


 雄叫びを上げて倒れるギガント、その上に舞い上がっていた石が降り積もっていく。

 そして土煙が晴れた後……着弾点を中心に半径10メートルほどのクレーターが出来ていた。

 その向こうには堆く積もった石の山と、それに潰されたギガント。


「な……主よ。今のは一体……?」


 ジルベールは驚愕し目を見開いている。

 驚いたのは俺も同じだ。

 今の俺は普段から必要な時に必要なだけ力が湧いてくる感じなのだが、思いきり投げたからか、あり得ない威力が出てしまったようだ。

 STRがバグってるのは俺が思う以上にヤバい状態なのかもしれない。


「あれは失われし大地魔法……我が家をあっという間に建てた建築魔法といい、もしやおぬしは失われし古代魔法を操る大賢者なのか! 只者ではないと思ってはいたが……流石は我が主と認めた男よ」

「いや、全然違うのだが……」


 こいつもかよ。大賢者って流行っているのか?

 しかも今のは魔法というより完全物理によるものだろう。どう見ても。

 はっきり否定してはみたが、ジルベールは可笑しそうに笑っている。


「わかっておる。古代魔法の使い手となれば無用に目立ってしまうからな。こんな辺境で暮らしておるのだ。大賢者だということは隠しておきたいのだろう? その程度は重々承知しておるわ」


 いや、全くわかってないぞ。

 完全なる勘違いである。人の話を聞け、コミュ障狼。

 ……まぁいいか。特に問題はなさそうだし、わざわざ否定するのも面倒だ。

 それに目立たない方がいい、というのはジルベールの言う通りかもしれない。

 この大陸には街もなく、少しくらい派手にやっても人目につくことはないが、もしあんなのを誰かに見られてたら、面倒ごとに巻き込まれる気がする。

 例えば魔王を倒せ、とか。それは嫌だ。俺は平和主義者なのだ。

 ジルベールが秘密にしていてくれるというのなら、それに越したことはないだろう。


「じゃあ俺のことはくれぐれも内密によろしく」

「わかっておる」


 そもそもこんなところで人に会うのかはともかくとして、ジルベールは快諾するのだった。

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