第22話台風がきた
それから数日が経ち、本格的な台風が訪れた。
空は大荒れ、横殴りの大雨と暴風がガタガタと戸を揺らし、時折雷鳴が響いていた。
どおおおおおおおん! と近くで雷の落ちる音が聞こえ、ジルベールは耳を押さえて身体を縮こまらせる。
「ジルベールさん、その……雷は大丈夫ですか?」
「む、無用な心配だ。神獣である我が雷に怯えるなど、あるはずがあるまい」
キャロが声をかけるが、ジルベールはすっとぼけている。
そんなこと言ってさっきからビビりまくってるぞ。
全く神獣が聞いて呆れるな。
「わ、わぁー。流石はジルベールさん! 私なんか恐ろしくて恐ろしくて……」
「ふん、大したことはない」
ついでにフォローを忘れないキャロ。
どうみてもお世辞なのにジルベールは尻尾を振って機嫌を良くしている。
ちなみに二人は雨が強くなってきた二時間前くらいに俺の家に呼んで避難させている。
万が一が起きた場合、ジルベールに乗って逃げなければならないからな。
「それにしてもヒトシ様は全く動じていませんね」
「当然だ。我が主だからな」
何故お前が誇らしげなんだジルベール。
動じてないのは、俺はどちらかといえば台風はワクワクするタイプだからだ。
それに一応、台風対策はそれなりに打ってある。
各家屋には太くて長い木を埋め込んで支柱とし、羊小屋も大木に括り付けているから、吹き飛ばされることはないだろう。
それよりも土手が決壊しないかが心配だ。
毎年台風なのに外出しては流されている人がいるが、今はその気持ちもわかる。
「しかし雨が激しくなったらジルベールに様子を見てきてもらう予定だったが……この調子ではなぁ」
雷が鳴るたびに塞ぎ込んでいるし、見に行かせるのは難しそうだ。
「あの、私が行きましょうか?」
「キャロが行くのはさすがに危険すぎる。やることはやったし、座して雨が通り過ぎるのを待とう」
最悪VITをバグらせれば、この台風でも死にはしないだろうし。
……その場合、イズナが文句言ってきたら適当に誤魔化すか。チョロいし何とかなるだろう。
「ふはは、困っておるようだの!」
「うおっ!?」
いきなり背後から声をかけられ、飛び上がる。
振り向けば得意げな顔をしたイズナがいた。
ったく驚かせやがって。変な声出たじゃないか。
タイミングが良すぎるが、心の中を読んではいないだろうな。
「川の様子ならわらわが見てきてやろう。なーに社が流されて困るのはわらわも同じじゃからの」
「それは助かる」
「お安い御用じゃ。では任せてもらおう」
そう言ってふわっと姿を消すイズナ。
あいつはお化けみたいなもんだし、あの身体なら風に飛ばされたりもしないのだろう。
頷いていると、キャロが目を丸くしているのに気づく。
そういえばキャロはイズナを知らないだっけ。
どう説明したものかと考えていると、キャロが口を開いた。
「あれがイズナ様ですね!」
「ん、知ってたのか?」
「はい! この地の神にして、ヒトシ様の盟友だとジルベールさんに聞いております!」
おいこらジルベール。一体何を吹き込んだ。
「次元を揺るがす程の大賢者の『力』。それを得る為に神であるイズナ様と交渉したんですよね。その際に意気投合し、以来志を共にしているとか……流石はヒトシ様です!」
いつの間にイズナが俺の盟友になったんだよ。
内容は当たらずしも遠からずではあるが……相変わらず話を盛り過ぎである。
「ふっ、主のことを教えろとうるさいのでな。我が色々と事細かく伝えておいたぞ。あぁ感謝は必要ないぞ。主の使い魔として当然のことをしておいたまでだからな」
満足げに頷くジルベール。
いや、全然ありがたくないのだが。
またお前のせいで誤解が一人歩きしているじゃないか。
「あー、それは勘違いというやつでだな……」
「ふふっ、わかっていますよヒトシ様。大賢者であると知られたら面倒ごとに巻き込まれる。だからこのことは他言無用、ですよね!安心して下さい」
そういうとキャロは人差し指を唇に当て、ぱちんとウインクをする。
駄目だこりゃ。まぁそのうち誤解だとわかってくれるだろう。
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