第12話新たな住民が加わった

「さっきはごめん、俺もいきなりでびっくりして警戒してただけなんだ。えーとキャロちゃんだっけ? 魔王を倒すために街を作るなんて大役を手伝えるなんて俺としても光栄だ。これからよろしく頼むよ」

「そ、そんな! 滅相もありません! 私の事など呼び捨てで十分でございますっ! ……その、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

「ヒトシでいいよ」

「ヒトシ様ですね! よろしくお願いします!」


 あわあわと狼狽えながらキャロは俺の手を取る。

 様付けはいくらなんでもこそばゆい。


「別に呼び捨てでいいんだけど……」

「いいえ、ヒトシ様と呼ばせていただきます」


 頑として譲ろうとしないキャロ。

 うーん、まぁいいか。

 ともあれ協力体制を取ることになったんだし、見せかけだけでもフレンドリーに接した方が効果的だろう。

 俺が警戒してるのを見せたら、キャロも俺を信用しなくなるからな。

 出来るだけ敵は作らないほうがいい。


「そうと決まればキャロの住まいも作らなくちゃな」

「ええっ!? わ、私の住まいなどお気遣いなく。ヒトシ様の小屋の隅にでも寝かせてもらえればっ! 何なら野宿でも一向に構いませんので」

「いやいや、女の子にそんな事はさせられないよ」

「な、何とお優しい……」


 感動しているが、キャロの住まいを作るのはこちらの都合である。

 何をされるかわからない以上、俺と同じ小屋では寝させられないし、野宿なんか論外だ。

 自分だけが野宿させられていると、最初は気にしなくても、いつか俺へ対する嫉妬となる。

 それに変な病気にでもなられて、それを移されたら最悪だ。

 このゲームでも薬はあるが、今の文明レベルでは今すぐ手に入るというわけでもないし。


「日も暮れてきたし、早速作業に入るか」


 俺はアイテムボックスから大量の木材を取り出す。

 森で多めに取ってきたからな。まだまだある。


「す、すごい量の木材……それにヒトシ様が手にしている物は一体……?」

「魔法みたいなものかな」


 せっかく賢者とか勘違いしているみたいだし、乗っからせてもらうとするか。

 説明するのも面倒だしな。

 DIYスキルを発動させ、ノコギリとカナヅチで家を組み上げていく。


「うわぁ、木材がすごい速さで切り揃えられていく……これは、古代魔法ですか……?」


 キラキラした視線を向けてくるキャロ。

 いや、どう見ても魔法ではないと思うが……納得してくれてるなら、なんでもいいか。

 俺は気にせず作業に取り掛かる。

 地面を固め、そこへ支柱を建て、壁を作り、屋根を組み、流れるような動作で家を建てていく。

 もう何度か建てて慣れたからか、以前よりも手早く作業が進んでいく。


「……ふぅ、完成だ」


 そしてキャロが住む為の一軒家が出来上がった。

 しかし俺の家よりは一回りほど大きいが、年頃の女の子が住む家としてはどうだろうか。

 水は通ってないし、トイレも流せない。ベッドも木、布団はゴザ……うん、ないな。

 とはいえ野宿よりはマシだろう。

 それに俺の小屋よりほんの少しだが立派に造ったんだし、文句は言わせないぞ。


「……」


 キャロは目を丸くし、言葉を失っている。

 しばらくそうしていたかと思うと、俺の方を向き直る。


「……私、こんなところには住めません」


 むぐっ、やはりこんな家には住みたくないか。

 まぁ男の俺でも嫌だもんなぁ。

 とはいえ今はそんなぜいたくを言えるほど余裕はないのだ。


「あー、悪いがこれでしばらく我慢して貰うぞ。俺だって同じような家に住んでるんだからな。まぁ必要なものは追々揃えていくつもりだから今日のところはこれで勘弁……」

「ち、違います! このような立派な家には住めないと言っているのですっ!」


 キャロは首を左右に横に振った。


「見たこともない様式の建築、お洒落な調度品……まるで貴族様の別荘です! それにこの家、ヒトシ様のよりも大きいではありませんか! せめてヒトシ様がこちらに住んでくださいませ!」


 そう言われても、この家はバリケード目的でイズナの社との間に作っているのだ。

 バリケード目的だから俺の家より大きめなのだ。

 俺がそっちに住んだら本末転倒である。


「いいからここに住んでくれって」

「いいえ、そうは参りません!」


 キャロは全く引く様子はない。

 ……参ったな、どう説得したものかと考えていると、キャロもまた不思議そうな顔で俺を見ているのに気づく。


「むむ、ヒトシ様は何故頑なに私にここへ住めと申されるのでしょう……はっ、そうか! 商家では客人をもてなす際は自分よりも一段上の紅茶、一段上の食事、一段上の部屋を用意して歓迎するもの……私が商人だと聞いてその流儀で応えたんですね。私を歓迎する、と……!そういうことなのですねヒトシ様っ!」


 いや、全然違うけど。

 まぁでも勘違いとはいえ、話がまとまりそうだし乗っからせてもらうとするか。


「あ、あぁ。そういうわけだからその家に住んでくれると助かる」

「わかりました。ありがたく住まわせて頂きます。これからよろしくお願いしますっ!」


 勢いよく頭を下げるキャロを見て、俺はやれやれとため息を吐くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る