第5話田んぼを作ろうと思う
「よし、それじゃあ田んぼを作るか」
そう、稲を手に入れたら今度は育てて食べられるくらいに増やさなければならない。
作物が育つには時間がかかるし、田んぼ作りを早目にやっておけば後々食料にも困らないのだ。
というか四季のあるこのゲームでは冬までに食料をため込まなければ死、あるのみ。
ゲームでは少々ミスってもプレイヤーが他所から食料やらなんやらを持ち込めばいいが、この状況でそれは期待できない。
テキパキ行動しないと詰んでしまう。
というわけでDIYスキルを使い、鍬を作り出す。
ご存じ農家さん必須の一本、土は耕したり石や木の根を除去したり、畝を掘ったり土を弄ったりと色々使える万能農具だ。
それに加えてこのゲームではもう一つ使い道がある。
歩き回っては鍬を振り下ろし、良さげな場所を探す。
カン、カン、キン、カン、ザクッ。
おっ、当たりの音だ。
ここならいい米が出来るだろう。
これは小技なのだが、鍬で地面を掘った時の音で土の良し悪しが判断できるのだ。
そうと決まれば鍬を振り下ろし、土を耕すことにした。
ザックザックとテンポよく土が掘り起こされていく。
子供の頃に爺ちゃんの家で農作業を手伝わされたが、整地してない畑は石やら草の根やらがたくさんあるのでそれを取り除くのがとても大変だった。
しかし今は柔らかい砂でも掘り返しているようだ。
根も石も鍬の一撃で粉々になるので、何の抵抗も感じない。STRがバグおそるべし。
しかもあれだけ草を刈って木を切り倒したのに不思議と疲れはなく、まだまだ全然動ける。
俺はどんどん田んぼを耕していく。
「……ふぅ、やりすぎたかな?」
気づけば1ヘクタールくらい耕していた。
まぁ大きいことはいい事だって言うし、広いに越したことはないだろう。
そう思いアイテムボックスから稲を取り出してはものの……手に入れた稲は思った以上に少ない。
手に入れた稲は二束、取れた種子は三十。
このままでは殆ど植えらそうにない。
初期状態での稲の収穫率は確か四十%弱、これではとても満足に食べられる量にはならない。
「仕方ない。……増やすか」
大量の稲を手に入れるには森の奥へ進まねばならない。
外周だけでもかなりビクビクしながらやってたのに、時間に追われながらやってたら焦ってミスして魔物に突っ込まれて、死ぬ自信がある。
今はレベルも上がったから一、二発攻撃を貰っても死にはしないが、森の中でいきなり魔物が出てきた場合――慌てて武器を持ち替えようとして手を滑らせ、あわあわ言いながら拾おうとして落とし、しかも誤って遠くへ蹴飛ばして、逃げようとするも木に激突し、気を失ったところを殴り殺されるだろうな。
自分のビビり具合は自分が一番よくわかっているのだ。リスクは出来るだけ避けるべきである。
それにもう春、田植えの時期である。そろそろ作業に入らないと収穫できない。
気乗りはしないが、ここはバグ技を使うしかない。
ため息を吐いて左手に石、右手に稲を持つ。
それを素早く近づけ両手で持ち変えて、また離す。
今度は右手に石、左手に稲となる。
これを何度か繰り返すことしばし――
「お、きた!」
持ち替えた瞬間、石が消えて稲になった。
よし、裏ワザ成功。
このゲームは両手に各々装備することが出来るのだが、それを高速で持ち変える事で処理速度を上回り、稀に右手に持っていたものが左手で持っていたもののデータを上書きすることがあるのだ。
持ち替えバグという裏ワザで、これを使えばお手軽にアイテム増殖が可能となる。
これまたバグ技なのであまりやりたくはないが、食べなきゃ死ぬ。死ぬくらいならそりゃやるしかあるまい。
手にした稲は倍々で増えていき、あっという間に百束を超えた。
これだけあれば後は自力で増やせるだろう。
「これを植えれば……っ!?」
突如、強烈な目眩がした。
目の前が真っ白になり、俺はその場に蹲る。
これは……今朝ステータスを弄っていた時に感じたものだ。
まさかこれがフリーズだろうか。
「……し……ぬし……」
幻聴まで聞こえてきた。
やばい、俺死ぬのか?
折角この現状に慣れてきたのに、そりゃないぜ。
「……おーい……ておるかのー?」
確かにゲーム世界に転移した時点で人生バグってるようなもんだし、いつフリーズしてもおかしくないけどさ。
そのうえバグ技も使ったけどさ。色々やらかしたかもしれないけどさ。
それにしても唐突すぎると思うんだよ。
フラグというか前兆みたいなのが欲しいわけ。そうしたら俺なりに自重もしたのによ。
ていうかそもそも俺は地道に活動してた方だと思う。
普通なら全ステータスバグらせて、アイテム全部無限にしての最強俺ツエー旅を満喫しててもおかしくないと思う。
なのにひどいぜ。俺は自分の運命を呪う。
「いやだーーー! 俺はまだ死にたくなーーーい!」
「おーい、おぬしー、おーい」
ふと、何者かが話しかけてくるのに気づく。
誰だ? どこから? 俺は顔を上げ辺りを見渡すが、それらしきものは見当たらない。
「……空耳か」
「空耳ではないわ。たわけめ」
「うわぉっ!?」
背後から声をかけられ、飛び上がる。
ゆっくり振り向くと、そこには白い着物を着た少女がプカプカ宙に浮かんでいた。
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