先程人工牛乳を取りに食料庫へ行った帰り、幽霊らしきものを見た。はっきりと見えたので見間違いではないと思う。

数億年生きていれば初めての経験ではないが、色々と思うところはあるものだ。

まずこの船には最初から私しか乗っていない。

もちろん造船時などは別なのだが、この船の中で人が死ぬなど有り得なかった。

となれば幽霊「らしきもの」は何らかの自然現象なのだろう。

この船のデータか私のイメージなどから人型をしていたか、あるいは私の脳内で作り上げた幻覚かだ。

研究してみようかとも思ったが、発表する場もなければ解明したところで得るものなど何も無い。

あれとコミュニケーションが取れるならシミュレーションが完成した時のためのリハビリになるだろうが、それなら高度な会話ができる人工知能でも作った方が早い。

更に、それよりも一人で思索していた方が楽だし早い。

今ふと思い出したのだが、幽霊らしきものと言えど恐怖の対象ではなかっただろうか。

今の私は何があっても死ぬことは無いし、この船のAIはおおよそ全ての理を解明し、理解している。

それゆえだろうか。恐怖心はない。

地球にいた頃はほぼ全ての人間が恐怖と性欲と欲望で動いていた気がする。

恐怖。私の恐怖とはなんだっただろう。

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