乱丁データ30
今日はボタンを押すことを少し止め、船の中にある遺物について調べてみた。
強固なプロテクトでデータは守られているが、物理的なプロテクトも存在するらしく、それ故の油断ではないだろうが、目録の一部を閲覧することが出来る。
もちろんそれも簡単ではなく、一日かけて名前が一つ分かっただけだ。
昔は船自体を探検し、幾つかの遺物を持ち帰ったりもしたが、一つを手に入れるのに覚えている物では二百年程かかった気がする。
今使っているコーヒーメーカーと呼んでいるものもその一つだったことを、これを読んでいる時の私は覚えているだろうか。
これはコーヒーメーカーではない。
中に入れた液体を、入れた瞬間の状態で望んだ時に望んだだけ複製するケトルらしい。
なぜ液体限定なのか、どういう仕組みなのかは分からないが、私はコーヒーメーカーに使うことを決めた。
勿体ない事をしている気はするが、他に使い道もない。
まあそのような科学技術の果てに生まれた道具を遺物と呼んでいるが、もしかしたら何か助けになるものがあるかもしれないし、コーヒーメーカーのようにこの退屈な毎日を少しはマシにしてくれるかもしれないと思い、極々たまに探している。
これを始めるとボタンが押せなくなるのが難点だが、終わりの見えない、シミュレーションの試行を繰り返す毎日では、早く手に入れれば入れただけ得というものだ。
そして本題だが、今日閲覧した目録にはタイムマシンと書いてあった。
タイムマシン。
正直なところ悩んだ。
地球で暮らしていた頃に戻ることも考えた。
もちろんすぐにではなく、この装置類を自分で作れるように、数百年かけて全てを記憶してからの話だ。
そうすれば娯楽に悩むこともなく今の暮らしができるだろう。
だが私はやめた。もしもこれを読んだ時に気が変わっていたなら探そう。
でも今はやめたのだ。
理由は五つある。
一つはプロテクトを解除できる保証はないこと。
一つはタイムマシンという名前を付けられた遺物が、私の思うタイムマシンであるとは限らないこと。
一つは地球で暮らしていた期間はたかだか数十年弱で、その程度の時間ではシミュレーションは完成しないということ。
一つは遺物の設計図等は地球に残してきた可能性が非常に高く、これまで一つも見つかっていない。
それはつまり私自身では作れないということを意味する。
そして私が過去に戻ることで確実に歴史は変わるだろう。次の歴史ではタイムマシンは生まれないかもしれない。
つまり徒労に終わる可能性が高く、望んだものが手に入ったとしてもタイムマシンを使えるのは、おそらくは一度きり。
その一度のタイムリープの価値が無為に過ごす数百年と釣り合いが取れるかといえば、甚だ疑問である。
これらの理由が、私がタイムマシンを探しに行かないと決めた理由だ。
そして最後に、たった一度だけあそこに帰れる手段が眠っているのなら、その夢は夢のままにしておきたい。
いつか限界が来た時のために。
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