乱丁データ12

いつかシミュレーターが望む解を導いたとして、私はこの生活を捨てられるのだろうか。

時々地球にいた頃の記憶が泡のように浮かんでくることはあるが、その記憶に感覚は付いてこない。

当たり前の話だが、既に地球で暮らしていた数千倍の時間を宇宙で、一人で暮らしている。

正確に言うなら暮らしてさえ居ない。

労働はなく、不安はなく、足りないものといえば娯楽くらいだ。

この船自体が小さな惑星であり、宇宙であり、人である。私はその中心にいる部品の一つに過ぎない。

今また何処とも知れない惑星に着陸した。私の意思とは関係無く。

また惑星を若返らせる作業が自動で始まるのだろう。やはり私の意志とは関係無く。

私のやるべき事はボタンを押すことだ。惑星を若返らせ、宇宙を延命させる壮大な仕事とは噛み合うことの無い場所で、私の意思によって。

死の無い世界で何にも怯えることなく、部品に成り下がり、ボタンを押すという単純な行為の反復で夢を追う、この生活が終わることに私は耐えられるのだろうか。夢を追っているのか、夢を追う夢を見続けているのか。分からない。いずれにせよ、私はボタンを押し続けるしかないという事だ。

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