第20話 過ぎ去る学校生活

 早いものであれから一年が経った。


 魔術の授業はとても面白い。ついに杖を使う魔術の授業になる。


 冬休みの間に、デリアとリリアナの杖を探して歩いた。


 杖の専門店が何軒かあり、そこに行ってみたのだ。


「よくわからないけど、これが一番手に馴染むわ」


 何度も店を回り、選んだ杖だ。デリアは樫の木の杖


 同じように回って選んだリリアナの杖は柊の杖だった。


 

 杖を使っての授業の時、予め私は杖を箱に収めて授業に出た。


 いつもダイヤのネックレスに収納しているけど、収納魔法というのは大変高度で、その上それが付与された物はとてもつもない価格がするのだと知ったからだ。


 それを持っていると知れたら、根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。


 杖もどうして持っているのか聞かれた時に、魔術のお師匠様から入学の時に頂いたのだと言っておいた。


 これは、本当の事だ。


 杖の扱い方の魔術Ⅱの先生はカナリア・ピロー先生という女性の先生で、前世の知っている人物で例えればマリリン・モンローの様な見た目のお色気たっぷりの先生だ。


 見た目はそうだけど、流石に魔術学院の教授で、指導は超キツイ。


「はい、ソコ何やってるの、ふざけてたら杖を取り上げます」


 ピンと持っている杖を顔の横で跳ねるように動かすと、指揮棒の様に振ってふざけていた男子の杖が先生の手元に飛んでいった。


 杖を使えば魔力が上がり細かい魔法も使いやすい。魔力を杖と馴染ませ先端に集中するような感覚だ。


 自分の得意な魔力がもっと扱いやすくなり強くなるのだ。


 私の杖は、素敵な杖だった。この杖を手持つと、いつも温かい愛情に包まれるような気分になる。


 


 学校が休みの週末に、ひっそりと図書館でユーノス様と待ち合わせをしたり、カフェで二人で過ごしたりする事がある。ユーノス様は魔法で目立たない様にされているので、他の人達には違う姿に見えているのかもしれない。


 私の話を聞いて下さって、宮廷魔術師の仕事の話もしてくださるのだ。


「早く、学校を卒業して、宮廷魔術師の見習いとして働きたいです」


「そうか、楽しみだな。私も早くシタンと仕事がしたい」


「はいっ。まってて下さいね」



 一年生の後期試験は、実践魔術で総合一位。座学では二位だった。座学の一位はソルジオ・カインだった。


 別に構わない、総合三位の中に入っていれば良いと思っている程度なのだ。


 二年生での夏休みは初めの一週間はタウンハウスで過ごし、後半はデリアとリリアナと三人で、王都から馬車で三時間の距離がある場所に遊びに行こうと計画を立てた。湖の街で二泊三日の小旅行をしようという事になった。


 貴族用のホテルではないので、安く泊まれる。リリアナもいつも節約生活をしているので、たまには旅行に位行きたいとの話になったのだ。


 王都からも近く、街中を通って行ける場所なので、盗賊などには滅多に会う事がないそうだ。


 そんな風にして親友と呼べる二人の友人も出来て、学校生活は楽しく過ぎていった。


 あっと言う間に、三年生へと学年が上がる。


 マリーンはあれだけ嫌いだった勉強も今は頑張っている。そして、なんと婚約者が出来た。


 同じ学院に通う一つ上の先輩で、男爵家の後継ぎである。もう小説とはかけはなれた現実になりつつある。


 父からの婚約話を蹴っていたと思ったら、好きな人が出来ていたようだ。上手く行って、婚約に漕ぎつけたのだと手紙にも書いてあった。


 兄も伯爵家の令嬢を婚約者に選び、華やかな話が夏休み帰った屋敷では話題になった。


 父とも兄とも休みの間殆ど会う事もなく、たまに屋敷で顔を合わせる時は、朝食か夕食で、お義母様もマリーンもいてくれるので、実害はなかった。


 それから四年生になり、そこで問題が勃発したのだった。


 四年生の夏休み、夕食の時に、めずらしく父が私に話を振ってきた。


「シタン、お前も今四年生だ。五年で魔術学院を卒業する。その後の事を考えているか?」


 まあ、話題としてはすごくまっとうな話題だった。


「はい、その後は推薦を受けて宮廷魔術師見習いとして仕事をしようと思ってます」


「宮廷魔術師?そんな推薦を受けられるわけがないだろう。何を馬鹿な事を言っている」


 ここで、とんでも発言が父から出た。


 多分学校からの成績表などにも目を通していないのだろう。


「まあ、旦那様、何を仰ってるの?同じ学院に通う友人の息子さんの話だと、シタンちゃんは学年で総合一位の成績だと聞いたわ。貴方知らないの?」


 母の言葉に頷いて、マリーンは睨むような目で父を見ている。


「お義父様信じられない。シタンは凄いのよ!」


「「総合一位?・・・」」


 兄も驚いた様な顔をしてこちらを見ている。


 結婚を控えている兄は、領地の仕事を父について勉強している所だ。


 まあ、この二人だと、私の事を馬鹿にしきってるから、そういう反応なのかもしれない。


 お義母様とマリーンの言葉が信じられない様子だ。


「学年主任の教授からも、推薦枠をいただけると聞いています」


 私がそう言うと、口をパクパクしたあと、拳を握って怒った様に言った。


「――――だめだ。お前はベルツ伯爵家へ嫁に行かせるつもりだ」


「「「はあ!?」」」


 お義母様と、マリーンと、私の三人の声がハモった。


 ベルツ伯爵領は隣の領地で、確か伯爵は奥さんに逃げられた独り者だ。子供もいなくて、父と同じ位の年だったと思う。いつだったか、お義母さまと、マリーンと三人で、話題にした事がある。


 あれはもう、親戚を養子にするしかないよねって。


 そんな人の所へ行けってどうなの?


「信じられない、お義父様、あそこの養蚕技術が欲しいのね!」


 マリーンが怒って立ち上がり叫んだ。


「実家に帰らせて頂きます!」


 お義母様も立ち上がった。


 


 




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