第30話 アウトラゼン国への派遣
セントレナとラスタリカの戦いを知ったアウドラゼン国は、魔法使いの派遣を依頼されて来た。
不思議だが、アウトラゼンには魔法使いは生まれない。
今まではアウトラゼンからセントレナに輿入れはあっても、逆は無かった。
魔法使いの血を外に出さない為に、王家の姫は国内の有力貴族に降嫁されていたのだ。
ラスタリカには何かの時にセントレナの貴族か王族の血が混ざる事があったのだろう。
それはもしかするとラスタリカ側の意思が働いていたのかもしれない。
知らぬ間に魔法使いの血が他国に流れていたと考えられる。
もしもラスタリカから攻めて来られたらアウトラゼンは成すすべもない。
アウドラゼンとセントレナは昔から良い関係を築いて来ていたので、国王陛下はセントレナから魔法使いを送る事を約束されたのだった。
このアウドラゼンとラスタリカの国境を覆う様に魔物の森が広がっているのは幸いな事だった。
魔物には昔から悩まされては来たが、ラスタリカからの侵略は免れて来たからだ。
アウドラゼンは小国だが、この地形に助けられていた。でなければ直ぐにラスタリカに侵略されていただろう。
鉱脈が通るアウドラゼンはレアメタルや魔石や宝石の出る魅力的な国だったのだ。
アウドラゼンからは過去何度も姫の輿入れがされていた。
その様な事で、ラスタリカもおいそれとはアウトラゼンには手を出せなかったのもあるだろう。
だが、そうした背景を清算するべく、ラスタリカからの姫の輿入れがあったのだが、結果的にはやはり国を侵略する目的だったのだ。
そうして、必然的に第三王子は皇太子殿下に立太子された。
こうなると、現在幽閉中の王妃が最初からディノレアス殿下を亡き者にしようとされていたのも頷ける。それ程に邪魔になったのだ。
今後、王妃と二人の王子は殺される事は無いが、二度と塔から出される事はない。
これ以上、強力な魔法使いの血をラスタリカに出す事は出来ないのだ。
私は、この半年後にはアウドラゼンへと派遣される事になっていた。
第三王子のディノレアス殿下が幼少時より迎え入れられた国でもあり、国民性もラスタリカとは違い穏やかでおちついた国だという。
試しに一年程魔法使いを数人アウトラゼンに送る事になったのだ。
久しぶりの休日に、ユーノス様と図書館で待ち合わせをした。
広い中庭の東屋に自作のサンドウイッチをもって行った。
子供の頃に侍女と一緒に食べたのが懐かしい。
サーモンとレタスとチーズを挟んでいるものと、卵焼きとレタスを挟んだものだ。
「旨いな。シタンは料理もするのだな」
「この位は寮のミニキッチンで作れるんですよ。お口に合って良かったです。貴族の子女らしくないけど宮廷魔術師の中には趣味でされている方もいて、私もこういう事好きなので・・・」
「ああ、こういうのは幸せだなと思う。ありがとう」
「でも、アウドラゼンに行けばユーノス様とお会いする機会が暫くなくなるので、凄く寂しいです」
「そうだな。私も淋しいが、シタンは優秀なので皆が推薦するのでな。あと、ディノレアス殿下も北の砦での事をかなり買っていらっしゃる。どちらにしても、宮廷魔術師を続けていくのならば必要な経験だろうと私も思ったのだ」
「――――ありがとうございます。そう言っていただけるのは嬉しいです。でも、向こうから帰ったら、ユーノス様のそばからもう離れたくないです!近くにいさせて下さい」
私は真剣に訴えた。ユーノス様は私の事を子ども扱いしていると思う。
小さい時から知っていたので、彼からしてみれば当然なのかも知れないけど、私は初めて出会った時からユーノスさまが大好きだ。
お嫁様案件は未だに私の心の中では生きている。弟子にしてもらっても、(直接弟子だと言われてはいないけど)ずっとずっと大好きなのだ。この際なのでコバンザメの様に貼り付いて離れないぞ。
そうしていれば、絶対いつかチャンスはあると思うのだ。
「シタンはずっと魔術師の仕事をしたいと言っていた。この話は受けて損はない話だと思う。私はこれからもずっとシタンの傍にいるし、何処にも行かない。シタンが望む事は何でも叶えてやりたいと思っている」
「はい。私はユーノス様が大好きです。お師匠様としても大好きですけど、男の人としても・・・。だから、半年後に帰って来たら、また一緒にサンドイッチ食べて下さいね!」
「・・・わかった。それに、アウトラゼンにも私からシタンに会いに行くよ」
「嬉しいっ」
私は他国に行くのだし、今生の別れみたいに、ユーノス様との別れを悲しんでいたけれど、アウトラゼンには移動用の魔法陣が用意されていて、北の砦との行き来の様に、時間はかからなかったのだ。
確かに魔力は消費するけど、国から送ってもらう分には自分の魔力は然程使わないし、アウトラゼンへの派遣は、他国を見る良い機会になった。
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