第18話 それぞれの事情

 翌日は入学式があり、教授の紹介の時に、特別教授でユーノス様が紹介されていた。


 ユーノス様の授業は4年生にならないと受けられないようだったけど、とても楽しみだ。


 うーん、やっぱりユーノス様は素敵だ。この世界、美形が多いけど一推しはやはりユーノス様。


 魔術師の式典用のローブは紺に銀の刺繍入りで、灰色の長い髪と赤い瞳によく合っている。



 ユーノス様とはあれから、魔鳥を使って手紙のやり取りもしている。


 がんばって魔術学院で、良い成績を保てば宮廷魔術師に推薦して貰えると言われているので、これはもう頑張るしかない。


 魔術学院の入学祝にユーノス様から杖を貰った。


 小説の中で、シタンが杖を使うシーンは無かったので、なんだかそれも嬉しかった。


 違う選択肢を選んで行って、小説の運命から離れていく事が出来ているような実感が湧いてくる。


 その杖は、誕生日にユーノス様から貰ったダイヤのネックレスの中に収めるようになっていて、私の意思で取り出せる。


 魔術学院では2年生になると、自分の杖を持つようになるそうだ。


 杖の専門店も何件かあるそうだけど、私の杖はユーノス様が領地の屋敷で育てているトネリコの樹から作ってくださったそうだ。


 嬉しくて嬉しくてたまらない。杖を貰った日はこっそり何度も取り出して、撫でまわした。


 杖からは、ユーノス様の魔力が強く感じられた。



 クラス分けで男子とほぼ半々の混合クラスになった。教室は階段教室なるもので、すり鉢状というのか教授の講義を上から見下ろす様な感じに作られている。


 教室は広く、どこに座っても良いので、前から三列目の右の端にした。


 仲良くなったデリアとリリアナとも同じクラスになり、三人並んで座る事になった。


 デリアは西の辺境伯のカーチス家の次女の様だ。


「シャオリオン侯爵様が宮廷魔術師長になられてから、家の領地に王宮の魔術師が派遣されるようになったから、戦力が上がって領地にゆとりが出たんだよね。それまではいつもピリピリしててさ。私もこんなでも魔力が強いから一応戦力で、そうでもなかったら魔術学院にも出して貰えなかったと思う。王都に出られた事は本当に嬉しかったんだよね。こっちで就職できたら嬉しいなあ」


 彼女は上にお兄さんが二人いてその中に混ざって逞しく生きて来たらしい。


 馬も乗り回すし、狩りもするそうだ。かっこいい。


 そして、リリアナの生まれ育った領地は男爵領で漁業が中心ののんびりした場所らしい。


「兄が結婚して兄嫁が来てから、なんか早く出ていけ的な雰囲気があって、息が詰まってたのよね。領地も豊ではないし学費なんてとんでもないって言われて諦めかけてたら、魔術学院は奨学制度もあるから、それを使ったの。就職したら働いて返さなきゃならないけど、手に職が持てるから嬉しい。政略なんて御免だしね」


 そんな話をされた。なるほど、奨学金制度もあったのか、だったら私もそうした方が良かったかななんて思う。


 私の事情は今の所は何も話ていないけど、とにかく宮廷魔術師になりたいのだと夢を語った。


 みんなそれぞれあるのだ。よく考えてみたら、貴族のまったり学園生活をしたいのであれば、ふつうの貴族学院に行く方が楽だし。特に貴族の子女であればその傾向が強いと思う。


 実力を身に着けて、自分の足で立ちたい者が多く来る場所なのだと思った。


 基礎魔術に座学、魔力は健康な身体に多く宿るという精神で、乗馬や弓なども授業に組み込まれている。


 今の所、男子とはあまり接触がない。離れて見ていて、ちょっといけすかない感じの子はいるけど、今の所は実害ないので傍観している。


 女子の方で問題児になりそうな子とはクラスが分かれたので、良かったなと思った。


 授業は何でも面白いと感じる。分からない所は図書室に行って調べたりする。その時もよく三人で行くけど、調べものをしたりする時はそれぞれが本気で勉強しているので、アッと言う間に時間が経っているのだ。


 寮の食事はどれも美味しいし、お昼の学食も美味しい。


 前期の授業が終わり夏休みにはどうするのか二人に聞いたら、二人共寮で過ごすと言っていた。


 五年間もその後も、実家の領地には帰るつもりが無いと言っていた。


 私はどうするのかと聞かれたので、タウンハウスの方には少し顔を出すかも知れないけれど、領地には帰らないと言っておいた。


 マリーンとおかあさまには、必ず夏休みにはタウンハウスに帰っておいでと手紙を貰っている。


 夏休みには一週間くらいは帰らないといけないだろう。


 おかあさまから、夏物の衣服を学校近くの『フェアリーテイル』というお店で作りなさいと手紙が来た。


 カタログでお母様が作る服を選んで下さっているので、採寸に行きなさいとの事だった。


 服は直接寮に届けてくれるらしい。他にも下着や必要な物があれば頼んでおけば支払いは家の方でするので大丈夫との事だった。お小遣いも月々で届くのだった。


 自分が働けるようになったら、おかあさまにたくさん幸せのお返しをしたいと思う。


 デリアとリリアナはこういう事も自分でやり繰りしているので、見習わなくてはならない。



 基本魔術の実技試験は何も問題なかった。座学の科目も試験ではどれも上位3位には入れている。


 でも、この試験結果、上位争いをしている他二名の男子に目を付けられているとは思ってもいなかった。


 ある日声をかけられて驚いた。


 


 


 


 




 

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