第7話 人としてダメな人
メリー事件の起こった日、シタンが押し込められていた離れには屋敷に帰って来たヴィエルジュ伯爵とハリスと従僕数人、それからエレン夫人付きの侍女二人が行って、中の様子を確認した。
エレン夫人付きの侍女は、エレン夫人がどうしてもという事で、ヴィエルジュ伯爵について行かせたのだ。
夫とハリスに対する不信感から、自分の侍女を一緒に認に行かせると強く言った為、伯爵も拒否できなかったようだ。
離れの中はシタンの物は殆どなく、その代わりに侍女がシタンの為のお金を横領して買い貯めた様々な品々が出て来た。
それは、シタンがこの離れに押し込められて育った七年分、という少なくない量だった。
メリーは盗人という事で役人に引き渡された。七年分の横領というと、メリーが働いてすぐに返せるような額ではない。
強制労働を生きて終えたとしても、末路は野垂れ死にしかないだろう。
今更ながらに自分のした、大それた罪に怯えているのじゃないだろうか?
ハリスは勿論、監督不行き届きで減俸。でも、それだけ。
ヴィエルジュ伯爵としては、私がもし死んでいても、事故で済ませていただろう。
それよりも、昔からこの屋敷に仕えている家令の方が大事だというわけ。
だけど、ハリスにも一矢報いる事が出来た。
彼もエレン夫人とマリーンから信頼を失った事はかなり痛いはずだ。
『人としてどうなのか』という部分に触れるからだ。
そういう部分が駄目だと思われた人間は信頼回復が難しい。
これはハリスだけでなく、ヴィエルジュ伯爵にとってはどうしようもない痛手に違いない。
現に、私が伯爵を恐れる(演技で)為、エレン夫人は私が休んでいる部屋には伯爵を近寄らせない。
兄のカノスもそうだ。
「こわいよう、だんなさまが、おこる。ここに居たらおこる。かえる」
「まあ、旦那様じゃなくて、お父様でしょ。ここはシタンちゃんのお家だから、誰も怒らないわ」
「・・・よんだら、おこられる。いたら、ぶたれる」
カレン夫人は、シタンに見えないように、目から落ちる涙をそっとハンカチで、おさえてニッコリ笑った。
「大丈夫よ、私はシタンちゃんの『お義母様よ』今日から、お義母様と呼んでね。こっちはお義姉様のマリーンよ』そう呼んでも、誰もぶったりしないわ。ねっ」
「お義姉様よ、シタンのお義姉様。よしよし」
マリーンも自分の庇護下の生き物だと認識したようで、一生懸命私を懐かせようとしている。
もともと、博愛主義の二人なので、信じられない位ぼろぼろの私は、可哀そうでしょうがない哀れな子供なのだろう。いっそう哀れさを催すように、演技も加えている。
このマリーンが、小説だと、シタンの婚約者を奪い、国を破滅させる原因となるのだけど。
ここでこの母娘を取り込んでおくと、どうなっていくのか楽しみだ。
エレン夫人が呼んでくれた神官様の治療魔法のおかげで、身体の傷は全快した。あとは、栄養不足の蚊トンボみたいな身体を治すようにと神官様からエレン夫人は言われ頷いていた。
それから、エレン夫人付きの侍女達も、同情的で、今まで見て見ぬふりをしていた者達は負い目があり、いっそう優しかった。
清潔な寝床に、綺麗な衣服。身体も綺麗にしてもらえた。おまけに、私付きの侍女も付けられた。
この件に関しては、エレン夫人がヴィエルジュ伯爵は口を出させなかった。
「旦那様、シタンちゃんには暫く近寄らないで下さい。身体の傷だけでなく、心に傷が残っているのです。それに、もしこれ以上あの子に何かされるような事があれば、私、この伯爵家に居られる自身がありません。実家に帰らせて頂きます」
こう言われたら、伯爵の立場からは口を出せない。
実際、自分のしていた事はゴミでクズのやることだと、自覚はあるのだろう。
私にしたら、取り敢えず、埋めておきたい所だけど難しい。
今は身体に栄養を付ける事を先に考えようと思う。
でも伯爵が反省するかどうかと言えば、今後に期待したい所だけど、無理だと思う。
だから、私は次にどうするか色々考えている所だった。
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