第8話 シタン猫をかぶる
「おかあさま、おねえさま、お花きれいね」
エレン夫人の庭で、花を愛でる会、発足中・・・。
「綺麗でしょう?この菫はシタンちゃんの瞳と同じ色よ」
「こっちは、おかあさまとおねえさまと同じ」
「ホントね。シタンはえらいね」
マリーンは私をぎゅーっと抱きしめる。
彼女の身体は柔らかくて気持ちいいが、私の身体はまだホネホネしていて気持ちよくないだろう。
それでも、マリーンは私をよく抱きしめた。
彼女達のふわふわした白金の髪と、水色の瞳の淡い色彩は、天使級の美しさだ。
子供ながらに、鼻の下が伸びてしまいそうな幸福感がある。ザマア見ろと男達の事を思った。
男達は、ここには近づく事も許されていないのだ。
食事も、私を屋敷に慣らせる為という名目で、伯爵やカノスとは別に小さめの部屋で三人で食事を摂っていた。
私への食事マナーもその時に少しずつ教えて行こうという目的の様だ。
食事マナーについては、私のいた世界とは然程の違いはないようで、大丈夫だった。
私の寝室はマリーンの部屋の隣に作られた。
エレン夫人の采配の元で、三人できゃっきゃうふふの日々をすごしている。
この幸せなトライアングル空間に、なにか異物(家令や従僕)入ってくると、私は、直ぐにエレン夫人か、マリーンの身体の陰に隠れた。これは、二人のツボだったようだ。
その異物に対して、エレン夫人とマリーンはゴミを見るような視線を向け、私を怖がらせないようにと注意を与えていた。
こうして、私は二人に守られた生活を送る様になった。
暫くこういう状況が続くと、伯爵もカノスも我慢できなくなった様で、三月も経つと私も交えて#普通__・__#の家族としての生活をしようとエレン夫人に申し出たようだった。
最初はエレン夫人も、断っているようだったけど、私が屋敷の生活に慣れてくると、この先の事を考えるようになった様だった。義母として、私の今後の幸せを考えているようだった。
「シタンちゃんは、怖いかもしれないけど、お義母様もお義姉様も一緒だから、そろそろお父様やお兄様のいる所で一緒に食事やお茶をしてみましょうか?様子を見て、少しずつ慣らして行きましょう、ね、どうかしら?」
まあ、エレン夫人のいうことも最もな話で、世間に出て行くには慣らしも必要だ。
「はい、おかあさま」
消え入りそうな声で、素直にそう返すと、さも可愛いと言わんばかりに抱きしめられる。
胸が柔らかくていい気持ちだ。エレン夫人は結構な巨乳の持ち主だった。ザマアみろと心の中で父親と兄に舌を出した。あっかんべー。
私としては別にこの伯爵とカノスの二人が暴力を振るったりして来なければ、一緒の空間にいてもいなくてもどうでもいい位の存在なので、了承した。
表面上は、震える小鹿の様な様子で、返事をするので、なおいっそう抱き締められる。
「大丈夫よシタンちゃん」
エレン夫人とマリーンは、気づかわしそうにしながら、何度も交互にぎゅーぎゅー抱きしめてくれる。
マリーンは、私というか弱くてすぐに死にそうなキャラ(演技)が、可愛くて仕方がないようで、カノスに対しては以前とは180度変わり、冷淡になっていた。超塩対応というやつだ。
それに、シタンの容姿はエレン夫人に整えられてもともとの美しい容姿を取り戻していた。
今までは全てがいいかげんなメリーによって、なされていたので、小汚かった姿が綺麗になったのを見て、屋敷の使用人だけではなく、父親と兄も驚いているようだった。
エレン夫人とマリーンは、シタンの母とよく似た容姿で、シタンも母の面差しを受け継いでいるので、父と兄と髪色と瞳の色は同じでも、三人はよく似た親子といえた。
マリーンは可愛い義妹に自分のサイズが合わなくなったドレスを全部あげるといい、着せ替えごっごをして遊んだ。
フリルやレースやリボンが大好きなマリーンは、等身大の着せ替え人形の様なシタンに可愛いドレスを着せては大喜びだ。何処に行くにもシタンを連れて行き、ついには勉強まで自分と一緒に受けさせるようになった。
食事は、エレン夫人とマリーンの間の席で頂く様になった。
「シタンちゃん、このお肉は柔らかいから食べやすいわよ、食べてごらんなさい。今まではあまり食べた事が無かったようだから、少しずつ食べる様にしましょうね」
「ほら、シタン、これ好きでしょう?義姉さまのあげるから、食べてね」
「おねえさま、ありがとう」
「あらあら、お口の横にソースが付いたわね、ちょっとこちらを向いてごらんなさい」
「はい、おかあさま」
義母も義姉も、食事の最中も構いたおしてくるが、ニコニコと対応した。
父と兄の二人共、何かもの言いたげな表情でこちらを見ているのが分かるのだが、目を合わせない高度なスルースキルを使った。
今の所、この様に和やかな?生活を過ごせているのだけど、10才になって神殿で魔力測定を受けてしまうと王子様との婚約問題が出て来るのだ。
そうなるまでに、次の段階へと進まなくてはいけないのだけど、まだ7才なので行動範囲が狭い。
それを、エレン夫人とマリーンを介して広げなきゃいけないと思って居る私だった。
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