第14話 大切な人

 マリーンは毎日学校の勉強が大変らしい。


 学校の先生からもっとお勉強に力を入れる様にと注意の手紙が屋敷に届けられたせいで、家に帰っても、おかあさまに強制的につけられた家庭教師の先生が週に3日も来るようになって。ヒイヒイ言っているのを見ると、ちょっと可愛そうだと思う。


「お母様あ、私お勉強は嫌いなのよお。もうムリだからあ。週一にしてよ」


「上の学年にこのままでは上がれないとお手紙に書かれていました。それでもいいの?」


「ふえーん。シタンとも遊べないじゃない。いやだあ・・・あ、そうだ、シタンも一緒にお勉強しよう!それなら頑張れそう!」


「まあ、こんな小さいのに可哀そうでしょう!」


「おかあさま、シタンおねえさまと一緒におべんきょうする」


「シタンちゃん、むりして付き合わなくていいのよ、もう、マリーンたら困った子」



 小説の方でも、マリーンは勉強は苦手と書いてあったはずだ。だけど、なんだかんだ言っても、マリーンは優しいお姉ちゃんなので、私も精一杯かわいい妹を演じる事にしている。


 やはり、愛情をもらえば返したいと思うのが人なのだ。


 だけど、これは功を奏したようで、マリーンは私に良い所を見せたくて、勉強を頑張る様になったのだ。

 

 おかあさまは、大喜びだった。



 兄とは今の所、全くその様な歩み寄りはない。父ともそうだ。


 私が8才だから、あと二年で10才。そしたら、魔術学院に入学出来れば、全寮制なのでそこに入ってしまえば5年は寮ですごし、そのまま就職出来れば家に帰らなくても済む。(ユーノス様の弟子として王宮魔術師になりたい)


 兄はマリーンやエレン夫人がいれば、当たり障りのないようにしているが、私が1人だと、廊下や庭で会った時、完全に無視をするのだ。でもそれで良いと思っている。


 インネン付けられなくなっただけでもいいとしなきゃね。前は暴力振るわれてたんだから。


 私とおかあさまとマリーンが仲良しなのも気に入らないのだろう。でも兄のカノスは年齢的にもまだ13才と子供だし。仕方ないと思ってる。精神年齢は私の方がずっと上だもの。


 全てが上手く行くなんて事はないと思ってるから。




 それよりも、魔術の勉強をしよう。そう思って、借りて来た基礎魔術の本から読み始めた。


 魔術の難しい原理を読んでも、今一つピンと来ない。


 こういうのは、イメージ力だって、昔読んだファンタジー本にあったように、難しく考えずに、アニメやゲームで見ていた魔法のイメージを使って、こっそり練習していた。


 アンの荒れた手を握って、治癒魔法の練習もしている。効果的面で、これをするとアンにとても喜ばれたけど、内緒にする様に言い含めた。


 それは魔力の練習は、10才を越してからする様にという決まり事があるからだと説明した。


 でも、シタンの場合、魔力量も多いので魔力切れを起こす心配も無く、練習はコッソリと続けた。


 水魔法と治癒魔法この二つはシタンの得意な魔法だ。


 何も入っていないコップに水を満たす事から、バスタブに満たす事、ついにはお母様の庭にこっそりと雨を降らせるなど、バリエーションは様々にやってみた。


 それに、図書館には週に必ず一回は行って、あれから何度かユーノス様ともお話が出来た。


 ユーノス様は、やはりシャオリオン領の領主様になられて、シャオリオン侯爵様になられたそうだ。


 魔法の事はあれこれ相談して、いろんな事を教えてもらっている。


 図書館でユーノス様と会える日が待ちどおしい。


 アンもお昼のバスケットが待ちどおしいので、図書館に行く日はご機嫌だった。



「シタン嬢の10才以降の事はだいたいの筋書きを作って上手く出来る様にしている安心しなさい。期日が迫れば内容を教えてあげるよ」


 この間はそう言われて、嬉しくなった。


 前に、ユーノス様からもらったハンカチは自分で洗っていつも大切に持っている。ピアスと同じで、私の宝物で、お守りだ。


 最近、刺繍を習いはじめたので上手になったらこのハンカチに刺繍を入れてユーノス様に渡したい。


 マリーンやおかあさまにもね。お花の刺繍を喜んでくれそうだ。


 そしたら、魔力付与の勉強もしたくなったので、今度ユーノス様にコツを聞いてみようと思ってる。




 小説にはシタンの指先が器用なのかどうかは触れてなかったけど、アンが褒めてくれるので良い線いってるのかもしれない。


 大切な人に何か手作りの物を渡したいという気持ちは、温かくていいものだなと思う。


 


 


 


 

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