第15話 魔術学院への足掛かり

 10才の誕生日を過ぎた。


 7才までは誕生日を祝ってもらったことがない。だけど、おかあさまと、マリーンの庇護下に移ってからは、二人と家の人達(父と兄は除く)に祝ってもらうようになった。


 でも父と兄にとっては、命日でもあるので、複雑だろうから二人の居ない時にお祝いしてもらった。


 そのようにして欲しいと、私がおかあさまとマリーンに頼んだのだ。


 二人には不憫だと言われたけど、それでもおかあさまとおねえさまが祝って下さるだけで十分だというと、泣かれた。だって、祝う気持ちの無い人に祝ってもらってもしかたない。

 

 ユーノス様からは、9才の誕生祝いに片方だけだったピアスの同じ物を揃えてもらい。


 10才で、揃いのネックレスをもらった。他人には見えない魔法がかけてあり、さまざまな守護の付与をつけてあると言われた。


 私は上手く出来る様になった刺繍をハンカチに施して、ユーノス様とおかあさまとマリーンにそれぞれあげた。


 三人ともとても喜んでくれたので嬉しかった。


 9才からは、おかあさまがお小遣いを下さっているので、新しい絹のハンカチを買ってそれに刺繍したのだ。


 前にユーノス様にいただいたハンカチは私の宝物なので、やはりとって置く事にした。


 10才になったら神殿で魔力測定を受ける決まりで、ヴィエルジュ伯爵家が通う神殿に行く日、ヴィエルジュ伯爵とおかあさまが一緒に来られると言われた。


 正直ヴィエルジュ伯爵は来てくれなくても良かったのだけど、普通、両親が揃っている場合、このイベントにはどちらも立ち会うという決まりらしいので仕方ない。


 大きな馬車を使い、おかあさまの隣に座り、対角線上にヴィエルジュ伯爵が座っていたが、向こうが嫌だろうから目を合わせないように気を付けた。


 でも、馬車に乗る時には、ちゃんと挨拶はしたのだ。


「今日はお付き合いくださりありがとうございます。ヴィエルジュ伯爵様。おかあさま、いつもありがとうございます」


「まあ、そんなに気をつかわなくても良いのよ、シタンちゃん」


 私とヴィエルジュ伯爵の関係は、その後良くも悪くもなっていない。


 それは、主にヴィエルジュ伯爵側の態度によるものだったし、おかあさまには、これ以上は望まないので心を砕かなくて大丈夫ですと伝えている。


 間に入って、面倒な役回りをしてもらうのも心苦しい。私の教育に必要なお金は出してくれているので文句はない。





 神殿では、魔力測定の金属の板に手を押し当てるだけというシンプルな物だった。


 マリーンの時は銅色に輝いた。


 カノスの時は金色。


 魔力が強いと金色か、その上は白金で虹色の混ざった色に輝くそうだ。


 小説通りであれば、私は一番上の白金と虹色に輝く筈なのだけど、結果は金色だった。


 これが白金に輝けば、その場で大騒ぎになるけど、金色はそこまで珍しいとは言い切れない。


 高位の貴族には出やすいからだった。


 これは、ユーノス様から頂いたピアスとネックレスに魔力を抑える魔法が付与されているからだ。


 彼が考えてくれた筋書きは、魔力測定で、一番珍しい白金の輝きを出させない事で、私が王族の婚約者に即時決められてしまう事を避ける事だった。


 魔力が金色レベルの令嬢は国内に、他にいくらもいる。


 公爵家、侯爵家と年齢的にも同じくらいの少女が何人もいる。それならば、私の方へと目が向く事はないだろうという話になった。


 なるほど、と思った。まさか魔力測定の結果自体を変えてしまえるとは思わなかった。


「おや、御令嬢は、治癒の力をお持ちですね。今、国家の魔術師育成対策で、治癒魔法の持ち主は特に必要とされています。もし、その魔力を持たれている場合は、王宮に速やかに連絡をする事になっていますので、そうさせて頂きます」


「はて、それは一体どのような事になるのでしょうか?」


 ヴィエルジュ伯爵は初めて聞く話に驚いたようだ。


「王宮魔術師の方から、その力をもつ魔術師を募集されているそうです。魔術学院への推薦があります」


 もちろん、この話も、不自然にならない様に、ユーノス様が神殿に通達して下さったものなのだ。


 実際、治癒魔力を持つ者はとても少なく、王宮でも足りていなかった。


「なんと、そんな事が・・・」


 ヴィエルジュ伯爵としては、魔力測定が金色レベルであれば、まだ王族の婚約者候補レベルなので問題はない。

 

 そして、魔術学院へ入る子供を持つ貴族家というのは、ちょっとした自慢になる。


 魔術学院はレベルが高くてなかなか入れないのだ。その証拠に、カノスも魔力は金色でも入る事が出来なかった。


 帰りの馬車でヴィエルジュ伯爵はとても機嫌が良かった。


 魔術学院は全寮制なので、私が寮に入れば不愉快な存在を目に入れなくても良い。


 逆に、おかあさまは離れて暮らす事になれば、とても心配だとおっしゃって下さった。


 やはり、父とは違い慈愛の塊の様な人で、とてもシタンの心は救われた。


 おかあさまはシタンの欲しいとおもっている言葉をくれるので、嬉しかった。


 そして、私も、ユーノス様の目論見通りに行きそうなのでほっとした。


 

 


 


 

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