第5話 シタンは身体を張る
メリーにまた鞭で打たれた。
尻や背中がヒリヒリする。きっとたくさん赤い痕がついているだろう。
あまりにお腹がへったので、戸棚の中のかびたパンをナイフで少し削いで食べたのがバレたのだ。
みてよ、この細い手足、ミイラじゃん、生きながら干からびてる。
こんなんじゃやってられないから、そろそろメリーを退治しなきゃ。
ということで、メリーがこっそりと、この離れで一人でお茶を淹れては食べている、高級菓子を食べてやった。
この菓子だって、本来ならシタンの為のお金を使って買ったものだ。
街に出ては、人の金だと思って好き勝手に使っている。
他の部屋のクローゼットには、メリーが自分の為の洋服や装飾品等を買って隠しているのを知っている。
ヴィエルジュ伯爵家の使用人の寮は同僚との二人部屋なので、色んなドレスやバッグに装飾品や靴等、大量に買い込んでいるのが一目瞭然だ。金回りが良いとすぐにバレてしまうのでここに隠しているのだ。
ここはお前の倉庫か!メリーのしている事は横領だ。
仕事をしている振りをして、離れでは好き勝手に怠惰に過ごし、シタンの為の金を横領しているのだ。
だけどこれを家令にこっそり伝えても、メリーに注意して、お金の管理を任せない様にする程度で、たぶんもみ消されるだろう。
だって、それって自分の監督不行き届きってやつだ。自分が不利になるような事は隠すに決まってる。
貴族家の使用人の雇用は、全て紹介制度で成り立っている。
何かしでかして辞めさせられて、主家を追い出された場合、次の紹介等してもらえない。
そういった場合、この小説の世界ではどうなるのかというと、あとは実家に帰るか、娼館といった紹介なしでも雇ってもらえる場所に行くかしかないような世界観だった。
小説では、シタンがメリーに仕返しをするようなシーンは出て来なかったが、ここまで酷いことをされてるのに、しなくてどうする。
メリーには、自分がやった事の落とし前をつけて貰おう。
菓子を食べ散らかしておいたら、思った通りメリーは怒髪天で大きな声で私を叫んで呼んでいる。
カビたパンを少し食べただけでも怒るのに、楽しみにしていたお菓子を全部食べられていたら、そりゃ腹が立つよね。
この離れで少々怒鳴った所で、誰も来ないのは分かっているから。口から火でも吐きそうな位怒っている。
メリーの楽しみにしていた高級菓子は食べ尽くされ、包装紙や菓子箱が台所には散乱していた。
この世界のお菓子はまあ、そんな大したことないけど、高級菓子だけあってバターや砂糖がふんだんに使われていて、シタンの痩せた体に染み入るようだった。
逆に身体が驚くかもしれない。腹具合が気になる。
「お嬢様!あんたが食べたんでしょ!この、食い意地の汚い、泥棒猫が!このっ、根性叩き直してやるっ!」
泥棒猫はお前だ!そう思ったが、口汚く罵りながら私を捕まえに来るメリーが怖い。
首根っこ掴まれて、振り回される。ううっ、首が詰まって死にそうだ。首がスレて痕が付いただろう。
シタンが震えている、心底恐ろしいのだ。鞭で打たれる痛みを思い出し身体が固まる。ダメよ、こんなことでビビッてちゃ!奮起させる。
私の身体を振り回して突き飛ばすと、鞭を手に迫って来た。
容赦なく鞭が頭に振り下ろされる。
いつもなら、両手で庇うので、私の両腕は、服を脱いだら鞭の痕がたくさん傷になって残っている。
避けずに受けてやった。額に当たった鞭は、子供の柔らかい頭皮を傷つけ血が流れ始めた。
「あ、」
メリーはとっさにマズイと思った様だったが、私はくるりと向きを変え走り出した。
床に点々と血が落ちて痕を残す。
「まっ、待ちなさい!」
私はそのまま家の中を走り抜け、玄関の扉を押し開き、外に出た。
血が顔を伝い、服を汚す。ちょっと目や口にも流れて入る。まあ、かまやしない。
こんな姿の子供が走って目の前に出て来たら絶叫ものだろう。
「くっくっ・・・」
可笑しくてたまらない。今から起こる事を思うと、わくわくする。
今の時間帯に誰がどうしているのかは、だいたい頭の中に入っていた。
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