第25話 過ごしやすい砦
到着して直ぐに、ドルトンさんに代わり、治癒師として働いた。
正直、私の魔力量は他の人の10倍あると言っても間違いではない。
だから、突然の緊急事態も対応出来た。
村で聞いた魔物の話は、北の砦の中でも起こっていたのだ。
それも、低級の魔物ではなく中級の魔物が突然砦の中に現れるという状態だったらしい。
魔道具による結界に安心しきっていた砦の中の者達は不意を突かれ、怪我人も多く出た。
薬や縫合だけでは済まない命に係わる怪我人の治癒を治癒師は優先させる。
当然医者や看護師も待機していて、その怪我の具合を見て、対処が振り分けられる。
それで治癒師の元には、重症患者が来るという事になるのだ。
重症患者が多ければ、その中の誰にどの程度治癒魔法を使い、他の誰にどれだけの治療をするのか考える。その上で緊急時の為の魔力を残しておかなくてはいけない。
さっきのドルトンさんは、この状況下で、私が来るのが分かっていたので、心置きなく治癒魔法を使ったようだ。
それだけ重症な怪我人が多かったので仕方がない。
この連絡は、ユーノス様へ直ぐに伝わり、魔法陣を使ってすぐに北の砦に来られたのだった。
夜遅く、治癒師の休憩室で一人でお茶を淹れて飲んでいると、ユーノス様が現れて驚いた。
ここには奥に仮眠室もある。
「シタン。着任早々、大変だったな」
スラリとした長身の、ローブ姿のユーノス様が外から声をかけて格子ガラスの引き戸を開けて入って来られる。
うわ、いつ見ても格好いい。憧れた姿のまま。昔から全然変わらない方だ。
「ユーノス様、早くにこちらに来られたのですね。お久しぶりです」
こちらに来て早々に会えるなんて、とても嬉しい。
「そうだな。君も長旅は結構大変だったろう?」
「――ふふ、そうですね。ユーノス様、お茶をどうぞ」
手元の茶器でお茶を淹れて、ユーノス様に差し出す。
王都から持って来た茶菓子を出す。
「なんだ、もうすっかりここの主の様になっているではないか」
慣れた素振りに見えた様で、そのように言われる。
「何処になにが置いてあるとか、そういう物の配置が全て城と同じですから、前から居る場所の様に感じます」
「そうか。疲れてはいないか?」
「疲れて居ないと言えば嘘になりますけど、ちょっと治療でバタバタしたので興奮気味ですから、起きているには丁度良いです」
「ああ、そうだろうな。魔力を大量に使ったのだろう?ドルトンの代わりに君に来て貰ったが、暫くは忙しいだろう。国境周辺を調べたら結界に穴を開けられていた。すぐに塞いだが、隣接するディバリア国にも魔魔術師がいるようだ。こちらも魔石結界に頼り過ぎて警備が甘くなっていたのだろう」
「油断が出来ませんね。何か目的があるのかも知れません」
「私もそれを懸念しているんだが・・・とにかく、砦の中だからといってシタンも油断しないように」
「はい、分かりました」
「治癒師と魔術師の応援を頼んでおいたので、近日中には誰か来るだろう。気負わずに、身体に変調があればすぐに休むんだ。治癒師が倒れたらお手上げだ」
でも、魔力量が底をつくような事があれば、魔道具で強制的に魔力が使えなくなるので、そこは安心できる。
「はい」
ユーノス様は昔からとても心配性な所がある。それがまたくすぐったくて、嬉しかった。
宮廷魔術師の入れ替えは済んでいると言われた。魔術学院で友人だったデリアとソルジオも同期の魔術師として働いている。
ジョーンとリリアナは騎士団に入団していた。
今回の遠征には同期は皆参加しているのだ。顔を見る事はあっても、見習いなので色々忙しく、目で挨拶する程度で、なかなか話をする機会もなかったけど、落ち着けばそのうち食事などを一緒にしたい。
「食事は摂ったのか?」
「看護師の方がここまで運んで下さいました。気を使って下さったみたいです」
「忙しくても、食べないと倒れるからな。気を付けて摂るようにしないとだめだ」
「そうですよね。それに、とても美味しかったです。デザートまであるから驚きました」
「こんな場所でも、何かしら楽しみがあるような暮らしでないと、もたないだろう?食べ物はなるべく良い物を出すように予算を割いているからな。そうだ。図書室もあるのだ。シタンは本が好きだろう?時間がある時に行って見ると良い。蔵書も新しくかなり数をふやしてある」
「図書室!嬉しい。休憩時間や休みに行ってみます」
北の砦は、ユーノス様の配慮で、辺境とは言っても過ごしやすく整えてあった。
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