第11話 貴族の付き合いめんどくさい

 あれから、マリーンも学校が始まり、私は屋敷でエレン夫人と過ごす事が多くなった。


 エレン夫人は友人の屋敷にお茶会に招かれたそうなので、私も連れて行くという。


 あまり行きたくなかったけど、なるべく『おかあさま』とは良い関係でいたいので、彼女について行く事にした。


「緊張しなくても大丈夫よ。学生時代の友人で、今は伯爵夫人なのだけど、今日はその頃の友人の集まりで皆、小さい子供達を連れて来るというのできっと楽しいと思うわ」


「はい、おかあさま」


「マリーンは学校だから、一緒に行けないけど、きっとそこでお友達も出来ると思うから」


「おともだち、出来るかなあ?」


 ちょっと首を傾げてみる。


「まあ、なんて可愛いの。沢山出来るわ大丈夫よ。今日は、新しいドレスを買いに行きましょうね」


「はーい」


 我ながらぶりっ子も極まれりって感じ?


 小説とは路線が変わったけど、ま、いいだろう。


「えーずるいお母様、シタンを独り占めしてずるい。私も行きたかったなあ」


「おねえさま、お土産ばなしもってかえるね。楽しみにしてて」


「きゃー。可愛い。うん楽しみにしてる」


 マリーンちょろい。



 お茶会はまあまあ楽しかった。友達もそれなりに出来た。同じ年頃の女の子3人と男の子2人いたのだけど、その男の子の一人は長じて第二王子の側近になるジャッシュ・クレランスだった。


 ここでもボーっとした打っても響かない、どんくさい子を演出しておいた。


 それなのに、どうしてこんなに皆周りに集まってくるのだろうか?不思議。


「シタン嬢、このお菓子美味しいですよ、どうぞ召し上がれ」

 

 クレランスは常に傍にくっ付いていてあれこれ世話を焼きたがる。


「まあ、シタン様の御髪の美しい事。触っても良くて?」


「どうぞ、おすきになさって」


 はにかんで(演技)そう言うと、エレン夫人が招待を受けたハバネルト伯爵家のミロン嬢は嬉しそうに私の髪を撫でさすった。ちょっとキモいかも。


「まあ、ミロン様、私も触らせてくださいませ。なんて艶やかな黒髪」


「カノス様と御兄妹だけあってそっくりですわね」


 皆口々に好きな事を言っている。


 髪を毟られそうで怖い。ビクビクしながら一生懸命微笑んだ。


「何て儚くて可愛いんでしょうか」


 誰かがそんな事を言った。


 儚く見えるのは、栄養不足が祟った為だと思うのだけど。とは言えない。


 あまりにも、シタンのウケが良すぎて我ながらドン引きした。


 後で考えてみたんだけど、やっぱエレン夫人ががんばって似合うドレスを選んでくれたおかげだろうと思った。


 だから、お茶会が終わって屋敷に帰る馬車の中で、どれほど楽しかったか、嬉しかったかとエレン夫人にお礼をたくさん言って置いたのだ。


「シタンちゃん、とても人気が高くて、お義母様は鼻がたかかったのよ」


「おかあさまが、こんな素敵なドレスをえらんでくださったおかげね」


 どこまでもこの路線でがんばる私だった。


 なのに、めちゃくちゃウケがいいのはどうした事だろうか?


 家に帰ってから、マリーンにおいしいケーキの話とか、綺麗な庭の話とかしてあげるととても喜んだ。


 それから、貴族学院であった出来事を話してくれた。


「貴族学院はね、一つ上の学年に第二王子様がいらっしゃるの。とてもお美しい方なのよ」


「そうなの?シタンはおうじさまとかなんかこわいから、学校いきたくない」


「大丈夫よ、王子様は誰にでもお優しいのよ」


 マリーンは夢みるような表情でそう言った。


 誰にでも優しいって事は、誰にも優しくないって事だよとは言えなかった。


 私の小説での記憶は、憎々しいまでに残酷な王子だった。ぜーったい関わらないぞ。


 そういえば、今日は帰りにエレン夫人が本屋さんに寄ってくれて、絵本をたくさん買ってくれた。


「おねえさま、後で、ご本読んでほしいな。ダメかな」


 こてりと首をかしげる。


「シタン、読んであげる!いっぱい読んであげるね」


 嬉しそうにそう言った。


「おねえさまにいーっぱいご本よんでもらいたいから、お城のとしょかんにいきたいなぁ」


「シタンは図書館にいきたいのね。じゃあ、義姉さまがお母様にお願いしてあげるね」


「わーい。おねえさま大好きー」


 と、この様にマリーンを使えば大抵の事は上手く行った。


 次は城の図書館に行ける事になった。

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