第21話 見捨てられたお父様

 ああ、この父親はついに見捨てられた様だ。


 お義母様は、慈愛の方なので、悪い事でもなるべく愛を持って良い様に見てあげようとされる。


 でも、私に言わせれば、この父親は自分が可愛いだけなのだと思う。


 許されれば、反省するのではなく、それで良いのだと勘違いするタイプなのだ。


 だから、私の事も、お義母様があれ以上父を責めなかった事で、それで良いのだと思ってしまったのだろう。


「何を言うんだエレン。シタンが嫁に行けば、家はもっと栄える。カノスだって嫁を貰うのだぞ。もっと領地を栄えさせる必要がある。君だってもっと裕福な暮らしがしたいだろう?」


「貴方様は、何てことを・・・」


 お母様は絶句状態だ。口に両手を当ててフルフル震えていらっしゃる。


「お母様!シタンをつれて、お爺様とお婆様の所に帰りましょう。私もう、このおじさん我慢できないわ!」


 ついに、マリーンにおじさん呼ばわりされてしまった。


「・・・ええ、そうね。こんな人だったなんて。もうムリだわ」


「本気か?私の財産は分けてやらんぞ!」


「結構です。言っていませんでしたが、私は母方の財産を分けて貰っていますから、普通の生活には困りません。贅沢をしようとも思いませんし貴方のような心の汚れた方とはもう暮らせません。生活の豊かさだけが心の豊かさを育むのではないのです。もうこんな所に一時でも可愛い娘達を置いては置けませんから、あとは貴方達がお好きになさって下さい」


 お父様はついに、聖母なお義母様を怒らせてしまったのだ。


 後妻にまで逃げられたら、もう次はないだろう。


「お義母様。私が付いて行ったらご迷惑になります。魔術学院は奨学生制度も整っていますし、あと一年なので私一人でも大丈夫です。それにお父様には私も愛想が付きました。家を出て、寮に戻ります」


「シタンちゃん。貴女は私の娘よ。ずっとそう思って育てて来ました。私は母なのですから、なんの遠慮もいりません」


「はい。分かっています。お母様。私も、本当の母だと思って来ました」


「シタン。私だって、本当のお姉様だからね」


 マリーンが飛びついて来た。二人で抱き合って笑う。


「はい、お姉様」


 私も、ここからは、義理の関係だなんて思わない事にした。


 この二人だけは、私の本当の家族だ。


「許さんぞ、シタン、お前は!ベルツ伯爵領に嫁に行くのだ!」


「お断りします」


「なんだと!」


 そこで父が私を殴ろうとしたのが分かった。殴らせたりするものか!


 私の手にはユーノス様に送られた杖が握られていた。


 無詠唱で杖をタクトの様に父に向けて振るだけで、父は壁に張り付けられた。


「まあ、お父様。女性に暴力を振るおうなんて最悪ですわ!貴方は昔のままの、ただの屑です」


 私は張り付けになった父にコップの水をおもいっきり掛けた。


 バシャリと顔が水びたしになる。


「お母様、お姉様。私の家族はお二人だけです。出て行きましょう。こんな人と一緒にいても、ロクな目に遇いません」


「本当ね。出て行くまでその人を張り付けておいてくれる?」


「ええ、大丈夫です。眠らせておきましょう」


 邪魔になるといけないので、ついでに兄も壁に張り付けて眠らせた。


「明日の昼頃まで邪魔な者達は皆眠らせておきますから、家を出る用意を致しましょうか?」


「そうね、ゆっくり支度して、明日の朝、ここを発てば良いわね」


 お母様はニッコリ笑った。


「では、お母様のご実家に魔鳥を飛ばしてご連絡をお送りしておきます」




 次の日の朝、馬車に荷物を積み込み、お母様とマリーンは、お母様のご実家へ帰って行った。


 私は、寮に戻る事を伝え、また詳細は手紙を送るとお母様たちに約束して別れる。


 それからその日の内に、この事件をユーノス様にも連絡した。


 すると、翌日会う事になり、いつもの様に図書館で待ち合わせる。



「シタン、直ぐに話をしてくれて良かった。今日、君の父親から学院を止めさせると連絡があったそうだ」


「えっ!父がもうそんな手を打ってきたのですか?」


 馬鹿な父親を持つとこんなに苦労しないといけないのかと落胆が激しい。三日位眠らせておけば良かった。


「でも大丈夫だ。私が学院長に、もしシタンの父親がそのような事を言ってくるようだったら、私の名前を出して断る様に伝えていたので、そうしてくれた」


 思わず、はあ~、と溜息をついてしまった。なんて父親だろうか。


「ユーノス様有難うございます」


 情なさ過ぎて、思わずポロリと涙が落ちた。


「シタン、大丈夫だ。私がついている。君の後見人には私がなろう。入学以来きみの成績はいつもトップクラスだ。王宮魔術師に必ずなる事が出来る」


 私は嬉しくて、図書館だという事も忘れて、ユーノス様に抱き着いた。


 




 


 

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