第一章・常夏の都へ

常夏の都へ その1

皇紀835年刈月17日 


アキツ諸侯連邦帝国新領臨南州最南端

神聖王国連合植民地との境界線付近



 昨日付けで赴任してきた中尉と少尉が、さっそく境界線を見たいというので連れて来た。


 本当に一日も早く任地に成れるために現場を見たいと言うなら、滑雪スキーかかんじきを履いて人力で行くべきなのだろうが、いきなり零下30度の世界に投げ出してやるのもまるで新人苛めの様でよろしくない。


 よって部隊で三台しか割り当てられていない虎の子の15式六輪自動貨車トラックに乗っかって分屯地から10キロメートル離れた境界線までやって来た。


 南を望めば、氷で覆われた断崖の向こうに灰色の空と、白い流氷や氷山を浮かべる青黒いの南方洋。西に目を向ければ、延々と北に続いて伸びる境界線を示す杭の列。

 杭の列の向うは一応友好関係にある『神聖王国連合』の植民地だから、鉄条網もなければ地雷も無い。クソ寒いだけで緊張感に欠ける風景だ。

 喋ると口から冷気が飛び込んできて肺まで凍りそうなので、適当に説明を済ませ。


「寒さに成れねぇ内ちゃ立ってるだけでも辛いだろう?さぁ、15式に乗りな、分屯地に帰って飯にしようや」


 そう、士官二人を促す。実を言うと俺が早く帰りたいだけなんだけどね。

 しかし、仕事熱心なお二人さんは「海岸付近の状況も見たく思います、どこか降りられる場所は無いでしょうか?」

 と、来たもんだ。

 仕方なく断崖を浜まで降りられる道の入り口に案内してやる。夏になれば兵たちを連れて釣りに出掛けるために見つけた道だ。

 入り口まで着くとちょうど真下が見下ろせるようになる。

 浜までの高さは軽く50メートルはある。覗き込むと小石ばかりで出来た浜に、白い氷交じりの波が飛沫と波の花を上げながら叩きつけていた。

 変な気配がして振り向くと、少尉が右肩を突き出して突進してくるところだった。

 身をかわして彼をよける。勢いあまってそのまま崖へ、助けてやろうと防寒衣の頭巾を掴んだが中身だけが崖の下目掛け落ちて行った。前合わせはきちんと閉じておこうな。

 振り向くと、残った中尉が拳銃をで俺を狙っていた。軍の正式拳銃である10式拳銃、彼我の距離は5メートルほど、突進して奪うにはちょいと遠いか?

 一か八か、声を掛けることにした。


「なぁ、悪いこと言わないから、俺の命は諦めてくれない?出ないとお前さんが死ぬ事に成るよ」


 中尉はいかにも軽蔑した風に鼻で笑い。


「あんたの評判は聞いてる。全球大戦で原住民部隊を率い領内戦線を戦い抜いた英雄っていう評判と、口先三寸で人様を平気で欺く『インチキ隊長』っていう評判もね」

「『インチキ隊長』は酷いなぁ、騙す隠す誤魔化すとぼける白を切るは兵法の基本だぜ?士官学校で習わなかったか?ホラ『医は仁術、兵は詐術』ってよく言うだろ?あれ誰の名言だったけ?」


 引き金に力がこもった様だ。もう逃げられない。そう腹を括った。

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