第四章 恩讐の終着点

恩讐の終着点 その1

皇紀835年干月6日 

拓洋市郊外烽火山山頂公園


 拓洋の南西にある標高500米ほどの山『烽火山』は、山頂一帯が公園化されていて南国の花が楽しめる庭園や茶房などがあり、広間は涼を求める市民や観光客で溢れ、夜は夜で拓洋の夜景を眺めながら、いちゃいちゃする逢引の男女で人気の場所だ。


 しかし、山頂近くにある墓地は、もののけの類が頻繁に目撃され陽が落ちるなり人っ子一人いない寂しい場所に成る。


 クズキが俺との接触の場所に指定したのはそういう理由からだろう。


 新領総軍総司令部を出た俺は、その足で近くの茶房に入り電話を借りて第6師団司令部の交換台を呼び出し「オタケベ・ノ・ライドウってもんだが、師団長閣下に取り次いでくれねぇか?」と言ってやった。

 すると交換台のねぇちゃんじゃなく、なんと師団長閣下御自らが電話にお出に成り「いま掛けている電話の番号を言え、あとからかけなおす」と来たもんだ。

 変に裾の短い女中メイド服を着た尻尾付きの可愛いお給仕さんが運んできたクソ甘い珈琲を飲みながら待っていると、鹿角の給仕さんが「ご主人様、お電話です」と呼びに来たので電話に出ると開口一発「どういう風の吹きまわしだ野良犬め」


「オムロ閣下に命乞いをと思いまして、今までのは兎も角、あんなのに追い回されちゃ命がいくつあっても足りません。これからはオムロ閣下の為に精々働かせてもらいますんで、お取次ぎを」


 電話の向こうではしばらく沈黙が続いたが、やがて。


「虫のいい話だが、一応オムロ閣下のお耳には入れてやる。今日の1900に今から言う番号に掛けてこい。結論を伝える」


 で、指定の時間に電話してみると、この公園に今すぐ来いとのご命令を頂戴したという訳だ。


 ガス灯の明かりを頼りに100年、200年ものの墓石を眺めつつ待つこと半時間。


 墓地の背後にある林から、黒い小さな影が染み出るように現れた。ネルワールの娘。予想通りの展開だ。


 今日は円套は無し。当然何時もの蛮刀『クッラ』はしっかり握っている。


 視線が合った途端、娘は何時もに勢いで突っ込んできた。

 俺も鞘からミンタラ刀を抜いて構える。


 繰り出されて来た刃を嶺で弾き返し、すれ違いざまに言ってやる。


「あの娘はお前さんの身内か?」

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