恩讐の終着点 その5
「き、貴様、何をした!」
可愛そうに墓石の破片が頭に当たったのか?剥げ頭を血だらけにしてフラフラ歩み出て来たクズギ。のそ質問に俺が答える間もなく、衝撃を与えた主が北の空に姿を現した。
拓洋の煌びやかな夜景に船底を照らされ、ものすごい速度でこちらに迫る巨大な翼。形がはっきりわかる頃、そこから眩い光線が放たれ墓地全体を煌々と照らす。
「お、乙飛戦だと」
閣下が驚くのも無理もない。北の空に現れたのは、乙種飛行戦闘艦『天籟』
「いやぁ、乙飛戦の主砲の威力は絶大ですなぁ、信管を抜いててもこの威力だ。次すっ飛んでくるのは榴弾ですかね?それとも榴散弾?」
推進器の轟音が辺りに満ちる。気が付けば天籟はもうすぐそこに。
『第6師団の兵に次ぐ!直ちに武装を解除せよ!繰り返す!直ちに武装を解除せよ!』
拡声器から威圧的な声が響くころにはもう頭上は巨大な鋼鉄の船体に覆われており、船底の爆弾倉が開いたと思うと、無数の綱が垂れて来た。
そして、それを滑り降りてくる黒青まだら模様のつなぎ服の一団。トガベ少将閣下の私兵『零大隊』だ。
彼らは音もなくすみやかに辺りに展開し、逃れようのない包囲陣を築き上げる。
茫然と立ち尽くしていた第6師団の兵達は、我に返るやいなや次々と15式歩兵銃を地面に投げ捨てた。
「貴様が生きているという事は、間に合ったようだな」
夜目にも鮮やかな純白の軍服を纏い、トガベ少将閣下が零大隊員を引き連れ現れた。
「ぎ、銀髪の小娘が!」と憎々し気に唸るクズギに対しトガベ少将は。
「私怨を晴らすために恐れ多くも帝の兵を勝手に動員するとは、軍法会議物の所業だぞ?如何に抗弁するか楽しみにしてやるクズギ少将。あと、貴様とオムロが溜め込んだ薄汚い金に関しても愉快な話を期待している」
と、言った後、顎をしゃくって零大隊員に命じクズギをどこかへ連れ去った。
金属と石が触れ合う音がしてそちらの方を向くと、あの娘が墓石の上にクッラを置いている最中だった。そのあと手甲や脚絆の中の棒手裏剣も地面に捨てると、伏し目がちに俺をみて。
「騙されたとは言え、吾がは姉ぇを看取り、弔ってくれた汝を殺そうとした。そのための金ももらってしまった。罰は受ける。どうにでもしてくれ」
いきなり女の子から『どうにでもしてくれ』と言われれば困るしかない。しかたなく上官にお伺いを立てる。一応、この人も女だし・・・・・・。
「どうしましょう?閣下?」
振られた閣下は顎に手をやり、真剣に考え(おそらくフリ)。
「この娘の所業は確かに様々なところに損害を出し、迷惑もかけている。ここでではさらばだとは行くまい。一応機関で預かろう。けがの手当ても必要だろうしな」
と、あまり見せない穏やか眼差しで娘をみる。そして。
「終の棲家を荒らした上に此処で長居をしていては亡者の皆様に迷惑だ。大隊諸君、撤収せよ」
少将閣下の命令一下、零大隊の連中はいつの間にかやって来ていた15式六輪自動貨車に乗り込んでゆく。その中には麻袋を頭から被せられ、後ろ手に縛られたクズギの姿も。
「少佐、良かったら乗っていくか?遠慮するな元は第6師団の装備品だ」
そう言って少将閣下は黒塗り高級車『トノダ・凱歌30型』を親指で差す。仰せの通り遠慮なく同乗させてもらおう。
どういうお心算か、少将閣下が助手席に乗り、俺と娘が恐れ多くも後部座席に通された。
さすがトノダ自慢の旗艦車だと、フカフカの乗り心地を満喫していると、隣の娘が不意に口を開いた。
「言うのを忘れてた・・・・・・。姉ぇを弔ってくれて、ありがとう」
礼を言われるまでもないと思い。
「いいよ、それしかしてやることが無かったからな」
それに対する返事は無かった。代わりに押し殺すような「姉ぇ、姉ぇ・・・・・・」と姉を呼ぶ声と、すすり泣きが聞こえる。
多分、今まで泣けてなかった分を、泣いてるんだろう。
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