序章
聊か感傷的な回想を少々。
仕事柄、大勢の人間の死に際を看取って来た。
バチャン族のハレシ。攻撃の時は先陣、撤退の時は殿。常に自分の身を顧みない無鉄砲な活躍で、隊を幾度も無く危機から救ってくれた。
そんな奴の死に方は、実にあっさりしたもんで、作戦を片付け意気揚々と拠点に帰る途中で、残敵の放った銃弾に背中を打ち抜かれて、自分の血でおぼれて死んだ。
トゥハナ族のモレン。冷静沈着で頭の回転の速い名参謀だった。祖領の参謀本部に連れて行っても通用するくらいの頭のキレを持っていた。
そんな奴の死に方は、部下を庇うため飛んできた手榴弾に自分が覆いかぶさって、上半身と下半身が生き別れになって死んだ。
俺と同期のコウ・ジャモウ大尉。軍人に不向きなほどの優しい奴で、何時も原住民の子供に囲まれ遊んでやっていた。
そんな奴の死に方は、敵方に回った原住民の少年兵に銃剣で腹を刺されて負傷し、苦しみぬいて一週間後に死んでしまった。
一番最後に看取ったのは、少女だった。
名前は知らない。生まれ故郷は大まかな場所しか聞いていない。
ただ解っているのは、美しく優しい誇り高い少女だったという事だけ。
女として産まれたことを後悔させられるほど酷く嬲り者にされた後でも、その目は輝きを失わず心はしっかり己を保ち、消えゆく命を振り絞って俺に故郷への形見を託した。
あの形見は、ちゃんと届いたのだろうか?
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