黒衣の刺客現る その2

皇紀835年干月3日 拓洋市臨海区紅楼街




 その街を知るには何をすればよいか?諸君らは知っとるかね?


 偉大な民族学者の言葉を借りれば、まずはその街の一番高い場所に行くこと、俺の場合、到着の翌日に拓洋駅の東側にある万国百貨店の屋上に登り街の全景を確認した。


 次にその街で一番うまい物を食う事。これについては、少将が俺の当面の拠点としてあてがってくれた拓洋一の歓楽街『華隆街かりゅうがい』にある旅舎ホテル月桃館げっとうかん』の食堂レストランで出される異国情緒あふれる料理の数々で事足りた。


 そう言えば昨晩出されたスズキの姿揚げ咖喱カレーあんかけ。あれは最高に美味かった。


 そして、これは俺の持論だが、その街の色街に行き、おネェちゃんを抱く事。これが一番大事。


 と、いう訳で、今日も日が暮れると『華隆街』のすぐ北側にある色町『紅楼街こうろうがい』の遊郭『艶楽書院ほうらくしょいん』に突撃し、一番のお気に入りの姫、リャワン族出身のチュゥニを鋭く指名していちゃいちゃしながらお部屋へ。


 遥宮亜大陸中部の密林地帯で暮らすリャワン族は『有尾人』の中でも一二を争う美貌を誇る種族。その中でもチュゥニは容姿体形ともに文句なし。その上床の中の技も『艶楽書院』一番と来たもんだから、お気に入りにするしか無いだろ?


 床に付くほどの長さの尾っぽで、ありとあらゆる感じる所を刺激されまくり、こっちも相手の感じる所を刺激しまくりで激しい攻防は2時間にも及び、良い感じでクタクタになって寝台に大の字に成ってると、まだ物足りない感じのチュゥニが尾っぽの先や指先で可愛く挑発して来る。


 そんな甘い時間をブチ壊したのは、下階から聞こえる女の子達の悲鳴と野郎の怒号。


 ヤバイ気配を感じつつ、おびえるチュゥニをなだめて床から出ようとしたその時。部屋の扉が乱暴に押し開けられ、この場に絶対に似つかわしくないむさくるしい野郎どもがなだれ込んできた。


 手に手に蛮刀を持った柄の悪そうな尾有人に角有人、その先頭に立つのは六連発の拳銃を構え、詰め入りの長い上着を着たデブ。


 そのデブがニヤニヤ笑いながら口を開いた。


「お久しぶりですなぁ、大尉さん。やっとお会いできた」



 色んな奴に恨まれてるから『お久しぶり』とか言われても困っちまう。ともかくチュゥニを俺の陰に隠しつつ一計を案じる。

 が、肝心の武器の類はみんな奴等の後ろ、扉の横の台に置いてある。


「ええっと、どちら様でしたっけ?」

「忘れられたとは悲しいですなぁ大尉さん。この前の戦争が終わる間際の迂恕ウドの街、私の商売を台無しにしてくれたのをお忘れですか?」


 あ、思い出した。友軍の将校を暗殺した連中の捜索に協力してもらう対価に、女衒に騙されて売り飛ばされた娘たちを取り戻してもらいたいと、虎走山脈北稜に住む角有人、ラホイ族に頼まれて、奴らの『商品倉庫』を襲撃したっけ。

 5、60人ほどの尻尾や角を生やした娘たちが、狭い倉庫に押し込められ売り飛ばされるのを待っていたのを思い出す。

 その時の悲惨な風景を思い出し、おもわず口走っちまった。


「思い出したぞ、何が商売だ。田舎育ちの初心な女の子を騙して苦界に沈めようってのは、犯罪って言うんだよ」

「なに正義の味方ぶってるんですか、アンタだって売られた女で遊んでるくせに」

「おいおいおい、この子らの名誉を傷つけちゃいけないぜ旦那、この子らは立派な商売として誇りをもってこの仕事をやってるんだよ。なんでもかんでも自分の価値観に貶めるのは良くないぜ」


 などと無駄話をしながら時を稼ぎ、俺はちょっとした手品の準備をしていた。

 チュゥニの髪から拝借した髪留めを彼女の尻の下で曲げてコの字に加工して、寝台脇の電気端子コンセントにそっと差し込んで・・・・・・。


「ご高説はもうよろしいでしょ。さ、お気に入りの娘に迷惑が掛からない内に、大人しくぶち殺されなさい」


 ゴロツキ共が一歩踏み出した瞬間、髪留めを一気に端子に突っ込む。

 俺の体に電流が走り、火花が散って、部屋の明かりが突然消えた。過電流に遮断機ブレーカーが作動したのだ。

 寝台から飛び降り、狼狽えるデブとゴロツキを突き飛ばし、卓子被テーブルクロスを引っ掴んで腰に巻き、台の上の銃を取って部屋を飛び出した。

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