過去からの追撃 その2

皇紀835年干月4日 


拓洋市御座区新領総軍総司令部特務機関長室


 トガベ少将閣下は、俺が昨日から今日までの一部始終を報告すると。


「それは実に気の毒な事だな、同情させてもらおう」


 と、言った後愉快気に笑った。言葉と態度が裏腹ですよ、少将閣下。


「しかし、最初の襲撃はどうでも良いとして、その後だな。問題は」


 最初のチンピラ共の分も決して『どうでも良い』と片付けられちゃ悲しいんですが・・・・・・。

 俺は先だっての様に閣下御自ら注いでいただいた火酒で口を湿らせて。


「その通りで、今までいろんな殺し屋に狙われましたし、使っても来ましたがあんなのは初めて見ました」

「衛兵の報告によると、一斉射撃を悉く交わし、まるで軽業師の様に飛び跳ねながら街路樹の陰に消えたとの事だ。その後憲兵による捜索を行ったが、未だに行方がつかめていない。貴様が撃った時に着けた傷からの出血の跡も途中で途切れたらしい。どこかに潜んで手当てしたんだろう。ただものでは無いな」


 閣下は椅子から立ち上がると、背後にある大窓に向かって、無数の照明に照らし出された離宮を眺めながら。


「暗殺者の正体は解らんまでも、誰が雇ったかは見当が付いてるのではないか?」


 図星だ。さすが二十代、それも女の身で少将にまで駆け上がり、特務機関長にまで収まったのは伊達じゃない。

 俺がその名を口にしようとしたとき、ゾッとするような笑みを頬に浮かべ、閣下は言った。あの、被虐趣味の変態なら狂喜の末に漏らしてしてしまいそうなヤツだ。


「貴様の元上官、オムロ・ノ・ダンジョウ元第1特別挺身群群長とその副官クズギ・ノ・モリオ。オムロは中将に昇進し本国の第17軍司令官に、クズギは少将になり第6師団の師団長成っている。おそらく、本国に居るオムロの指示を新領のクズギが実行しているのだろう。昔からこんな風に乳繰り合っていたのか?この2人は」

「陸士の一年違いですからね。第1特挺群の時もいつも一緒に居ましたよ。ケツの貸し借りの仲じゃねぇかって噂もありましたよマジで」


 閣下は肩を竦めると踵を返し向き直り、窓を離れ俺の目の前の椅子に腰かけ、空のグラスに火酒を注ぐと一気に飲み干し、また注いで。


「気分の悪くなる噂だが、さらにその上を行くおぞまし噂も耳にしているし、貴様がそれに一つ絡んでいると言う話も聞き及んでいる。貴様が命を狙われる理由もそれだろ?」


 今度は俺が笑う番だ。


「流石、特務機関ですな」

「手癖が悪いにも程があるな、それも摘まんだ金額が20万圓(1億2千8万円)とは、オムロやクズギの気持ちも解らんでもない。ま、それを今さら咎めるほど私は初心では無いので安心しろ。それに金の行方についてもどうでも良い。しかし、動機と手口に関しては多少興味がある」


 ここまでご存じなら隠し立てする必要もない。と、少将にオムロやクズギが俺を消したがっている理由を話した。

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