第三章・過去からの追撃

過去からの追撃 その1

皇紀835年干月4日 

拓洋市御座区離宮前公園


 兵隊共の声が遠のく。

 葉の多いナンヨウカエンジュの樹幹に潜んでいれば闇に紛れて身を隠せるし、一族の教えにある呼吸法を使えば気配もほぼ消せる。

 何人兵隊を出そうが、ここに潜んでいる限りは見つけ出せないだろう。もし、犬を連れて来ても獣の鼻を鈍らせる効き目の有る樹皮の粉を撒いたから安心だ。

 右太腿をを打ち抜いたあいつの弾丸は、綺麗に体の外に抜けていた。

 おかげで弾を取り出す手間が省ける。

 血が出ない様に革帯で太腿を締め上げてあるので、あとは開いた穴には薬をしみこませた布を突っ込むだけだ。

 痛みは感じない様に鍛えられてきたが、やはり痛いのは痛い。拾って来た木の枝を噛んで何とかこらえる。


 しかし、あいつ、中々死なない。


 今まで自分に狙われた奴は、大概あっさりと殺されてくれた。

 おかげでこの2年の間、金を稼ぎ生きてゆくことができた。

 ところがあいつは2度もこの手から逃れ、それどころか自分に傷まで追わせた。

 憎い、体が燃え上がりそうに成るほど憎い。

 あいつを殺せと頼んできた奴から、今までに見たことも無い様な大金を貰ったが、正直そんなのはどうでも良い、全部姉ぇの墓を作る為に使ってやる。


 そしてその墓に、あいつの生首を供えてやる。


 姉ぇ、仇。取るよ。必ず。

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