町にて

 青々とした葉を茂らせていた木々も冬支度を始めたように色づき始めている。

 寒さはいよいよ本格的に顔を出し始め、吹く風は鋭利な冬の刃を潜めているかのように感じられた。

 その頃になって奏はようやく近所の環境に慣れてきていた。

 とは言っても、それは良い意味では決してない。

 近くのスーパーなんかに出かけ、奏の顔を知っているらしい人と出会うと決まって相手は慌てたように顔をそむけるような仕草をした。それで済めば良いが、明らかに避けるような態度をされたってことだって一度や二度ではない。まるで今にも奏がコートの内から刃物を取り出して振りかざしてくるのではないかと思っているような態度だった。

 奏が『ボーダー超え』であることは二年やそこらでは消えるような話題ではなかったし、そんな奏がどういうわけか家に帰ってきていることも、気がつけばいつの間にか近所にがん細胞が周囲を浸潤していくかのごとく知れ渡る情報となっていた。

 もちろん奏の耳にだってそんな情報が微かにではあるが入ってくるし、悪意を持って――それがあからさまな方法でなかったとしても――伝えてくる人間がいる。

 当たり前だがそんなことをされて良い気持ちがするものじゃない。

 けれど、それでも奏は七海がいてくれればさほど気にするようなものでないと思うことが不思議と出来た。


『周りは周り。今は別にボーダーを上回ってるわけじゃないんだから、お姉ちゃんは堂々としていれば良いんだよ。』


 そう彼女が言ってくれるだけで救われているような気がした。極端な考えなのかもしれないが、七海さえわかってくれていれば自分は十分に幸せであるようにすら思えた。


「今週さ、ちょっと遠出して街の方に遊び行こうよ」


 七海がふいにそんなことを言ったのは、テレビの気象予報士が明日の朝の冷え込みが今季一番のものになると伝えている時だった。


「遠出って?」

「ほら、定期健診に行く時にS駅で乗り換えるじゃん? あそこでも良いし、ちょっと遠回りになっちゃうけどH駅とかでも良いかも」


 病院の定期検診には七海も毎回付き添いで、学校を休んでまで付いてきていた。そんな必要はないと奏は言っているのだけれど、心配だからの一点張りで彼女は譲ろうとしない。


「退院して外に出るって言ったらこの近くのコンビニとかスーパー、本屋だけでしょう? あんまり実感ないかもしれないけど、お姉ちゃんだって華の女子高生の年なんだから。もうちょっと遊んだって罰はあたらないよ」

「そうは言っても、正直私はそういうのよくわからなくて……」

「遊び方?」


 それに奏は頷いた。


「私は目が覚めるまで二年間隔離されていたんでしょう? 高校生らしい遊び方なんて……そもそも必要なのかどうか」

「必要かどうかじゃなくて、遊ぶだけだよ。わからないんだったら私が教えてあげる」

「七海……」

「だから、今度の週末にね?」


 そう屈託なく笑う彼女に奏の頬も自然と緩むのがわかった。




 週末は空が高く澄んだ青空だった。


「考えてみれば、お姉ちゃんってあんまり服とか持ってない方だったんだよね」


 普段と何一つ変わらない格好で出かけようとした時に、七海が「せっかくだからもうちょっとおしゃれしよう」と奏の部屋に来てクローゼットを開けてはみたのが、中には似たりよったりの服しかかかっていない。


「それに、今は体型も少し変わってるし、合わなくなってる服もあるでしょ?」

「七海は服、たくさん持ってるよね。ファッション誌とか見て勉強してるの?」

「あんまり勉強してるっていう意識はないかなぁ。けど、学校で友達とつるんでると自然とそういう話になることも多いし、私もそういうのは嫌いじゃないからさ」


 これは最初にアパレルショップ行った方が良いかもね、とあごに手をやってクローゼットを見やる七海の横顔に奏はなんとも言えない気持ちを覚えた。

 おしゃれな七海に自分のあまりの飾り気のなさを見られている恥ずかしさもあったし、それと同じくらい真面目に自分のことについて考えてくれているということに対しての嬉しさもあった。

 正直、時間が経ったから七海と接することに慣れはしたが、未だに姉妹という感覚は非常に薄かった。

 明るくてハツラツとした、自分とは対照的な性格に思えるのにとても自分のことを大切にしてくれる女の子。

 それが素直な感想だったかもしれない。

 惹かれると言うのは姉妹だから表現の仕方は変なのだろう。でも、それが的を射ている言葉に思えた。

 結局奏はいつもとさほど変わらない服で――七海はブルーのニットとブラックのガウチョパンツを合わせ、上からグレーのチェスターコートを羽織っている。カジュアルに巻いたマフラーを見ても、どこかの読者モデルに載っていてもおかしくないと奏は思った――出かけることにした。

 奏たちの家はベッドタウンとしてそれなりの人口があったが、商業施設ということで言えばちょっとしたスーパーやドラッグストアの並んだこじんまりとした商店街があるばかりだ。

 しかし、電車に乗って多少行けば大きなショッピングモールを抱えた街や、街自体が一つの商業施設であるかのような繁華街に行ける。今日はモールの方ではなく病院への乗り換えで使う繁華街の方に七海は向かうようだった。

 通院以外で電車に乗るのは初めてだった。特別電車を使うのにためらいがあったわけではないが、そもそも電車を使って移動しなければならない用事もなかった。

 休日ということもあって電車は多少の混雑を見せていたが、繁華街に着いたらその比は比べ物にならないものだった。駅構内から始まり、外も溢れんばかりの人が右に左に行き交っている。病院への行き帰りの時にくらいにしか経験してないが、奏は人混みはあまり得手ではなかった。あまり馴染めるような空気でもなく、気を抜くと途端に人波に酔ってしまいそうだ。

 と――


「お姉ちゃん」


 駅の改札口を出たところで前を歩いていた七海が不意に立ち止まったかと思うと、そっと手を差し出してきた。

 戸惑ってしまったのは一瞬のこと。奏その手の意味を察して七海の手を握った。


「お姉ちゃんスマホ持ってないし、はぐれると大変だからね」


 七海が明るく笑う。

 再び歩き始める彼女に慌てて奏も横に並んだ。吹く風はもうすっかり冬支度を済ませているというのに、繋いだ手は微かに熱を持っているように思えた。

 いきなり専門的なところに行っちゃうのもあれだから、と七海は幅広く多くのジャンルをそれなりに扱っているカジュアルなアパレルショップに奏を連れて行った。

 二階建ての建物はガラス張りがメインのモダンな造りになっており、中に入ると高い天井に明るい照明が店内を広々と見せている。

 休日のせいか人も多く、ほとんどが女性で、たまに見かける男性はそんな女性たちの付き添いのようだ。流行りらしい洋楽のBGMにそこらかしこから会話の音がし、時折楽しそうな笑い声がする。店内のどこからか、店員と思しき人の「本日特売日となっておりまーす」と間延びした声がした。

 そんな状況に少し圧されながらも、近くにあったセーターの値札を何の気なしに見てみると二割引きのシールが上から貼られていたが、それでも決して安いとは言えない値段が書いてある。瞬間、見てはいけないものを見てしまったかのようにそれを戻す。


「な、七海……」

「うん?」


 奏は思わず七海の服を引っ張った。


「私、あんまりお金持ってないんだけど……」

「お金?」

「ほら、病院から家に来た時に渡してもらった……」

「ああ、そう言えばまだ渡してなかったね」

「渡してなかったって、渡してもらってたけど……?」

「違う違う。あれは当面必要になるかな、って思って渡した生活費だよ」


 笑いながら七海は奏を店内の隅に連れて行くと、財布から数枚の一万円札を抜き出して奏に差し出した。


「これ、お姉ちゃんの分のお小遣い……の一部だね。今日はこのくらいあれば大丈夫かな、って」

「私の?」

「家を出る前に渡そうと思ってたんだけど忘れちゃってた」


 それからこれとこれも、と銀行の通帳とキャッシュカードも渡される。


「お母さんが死んじゃって、お父さんもずっと海外だから私が家のお金の管理してたんだよね。もちろんそれまでのお姉ちゃんの分も」


 確かに通帳の名義は奏の名前になっている。中を見ると年齢から考えればそれなりと言えるだろう金額が明示され、今渡されたお金の分が昨日の間に下ろされていた。

 それに驚いている間に七海がそっと四桁の数字を奏に耳打ちする。


「今のがお姉ちゃんキャッシュカードの暗証番号。私の誕生日になってるから覚えやすいと思う」

「七海の誕生日?」

「そう。それで、私の方はお姉ちゃんの誕生日が番号になってるの。誕生日は確か病院にいた時に教えたと思うんだけど……」


 確かにそれは自分が天咲奏であるということを教えてもらった時についでの情報のように教えてもらったように思う。七海の誕生日は知らなかったが、今の四桁がそうなのだろう。


「お姉ちゃん倹約家だったからさ。お年玉とかお小遣いとかほとんど貯めてたんだよ。無駄遣いとかしてるの見たことないし」

「でも、勝手に使って良いの?」

「勝手に使うもなにも、自分のお小遣いだよ?」

「そうは言われても……」

「まだ実感ない?」


 奏は小さく頷いた。

 確かに貯金通帳は自分の名前が記載されているが、それでもどこか他人さまのもののように思えてしまう。


「記憶喪失っていうのも難儀なものだね」

「その、ごめん……」

「別にお姉ちゃんが謝るようなことじゃないよ。確かにいきなりボンとお金渡されても困っちゃうか。……うん、お姉ちゃんはそういう人だったもん」

「そう?」

「うん。やっぱり記憶がなくてもお姉ちゃんはお姉ちゃんらしい」


 そう七海は笑った。




 結局そのまま何も買わないでアパレルショップを出て、冷やかしがてらウィンドウショッピングをする。

 途中の、通りに面したお店で「このくらいからお金使うの慣れていこうよ」という七海の冗談交じりの提案でお互いにチュロスを買った。チュロスを食べながら当てもなく歩く繁華街は奏にとっては正しく別世界のように感じられた。

 一応の常識はあっても、奏にとっては経験する全てのことが初めてのもののように思えて、まるでおとぎ話の世界に飛び込んだかのような不思議な体験だった。

 もちろん実際はどうかわからない。

 記憶がないだけで記憶がある時には友達と似たようなことをしていたのかもしれないし、もしかしたらそういったことはあまりせず、今の自分がそうであるように引っ込み思案で家にこもりがちななタイプだったのかもしれない。

 ただ、七海の雰囲気からするに姉妹仲は相当に良かったんじゃないかと奏は考えた。

 いや、間違いなく良かったのだろうという確信が持てたと言った方が良い。

 明るくて人懐こく、それでいてさっぱりとしていて付き合っていて心地良い性格だ。七海が学校でも多くの友達に囲まれているだろうことは想像に難くない。

 なのに、こうして『ボーダー超え』だった姉である自分に多くの時間を割いて付き合ってくれる。

 きっと、それだけのものが七海と『昔の』奏の間にはあったに違いない。

 そう思うと嬉しい半面、少しだけ心苦しかった。

 チュロスを食べ終わってから大きな看板をかかげたゲームセンターが目に入って、特に理由もないままに足を向けた。

 奏だってゲームセンターくらいは知っているが慣れているような感じはしない。入口には太鼓を叩く有名なゲームが二機置かれ、その横から奥にかけてはずらりとUFOキャッチャーが並べられている。奥の方にはまた違ったゲームがあるらしく、繁華街の喧騒とはまた違った雑音の嵐に思わず耳を塞ぎそうになった。


「そう言えばお姉ちゃんとゲーセンに来るのって初めてだね」

「そうなの?」


 周囲の音に負けないくらいの声で七海が言った。


「今は何となくの雰囲気で入っちゃったけど、お姉ちゃんはあんまりゲーセンって感じしなかったし、たぶん他の人とも来なかったんじゃないかな?」

「七海は? よく来るの?」

「そんなによくは来ないよ。たまには来るけど、UFOキャッチャーとか欲しいのあるとどうしてもお金使っちゃうし」

「それ、聞いたことがある」

「それって?」

「UFOキャッチャーはお店の大きな貯金箱って話。どこで聞いたのかは覚えてないけれど」


 そんな奏の言葉に「大きな貯金箱って本当にそうだよ」と七海は笑った。

 それでもせっかく入ったのだからと、店の奥に向かって歩いて行く。

 UFOキャッチャーの景品に並んでいるのは大きな袋に詰められたお菓子だとかぬいぐるみの類が多く、少し過ぎていくと無線のイヤホンやキーボードなんかの機械モノもあった。

 UFOキャッチャーの種類も様々で、スタンダードな掴んで持ち上げるものやどこかに押し込むような形のもの、咄嗟に見ただけではどうやって遊ぶのかもわからないものもあった。


「そうだ、せっかくだしプリクラ撮ってこうよ」


 進むにつれて、奥がプリクラのコーナーになっていると気づいたらしい七海が言った。

 もちろんプリクラだって名前は聞いたことはあるが奏にとっては未知の存在に等しい。

 特に反対する理由はなかったが、だからと言って「どういったのが良い?」と聞かれてもわかるわけもなく、「七海に任せると」言うと彼女は「うーん」と少し悩んでから一つの機種を選んでビニールの布で出来た向こうに奏を引っ張っていった。


「こんな風になってるんだ……」と中を見やる奏に七海は慣れた様子でタッチパネルを操作していった。

 そのまま七海に言われるままにポーズを取って、出来あがった画像に七海が『おねーちゃんと』と書いて、ハートマークを付け加える。「お姉ちゃんもなんか書く?」という問いかけに、奏は苦笑しながらかぶりを振った。とても自分には何か気の利いたものが書けるとは思えない。

 出来あがった写真はあべこべに作られた『綺麗』なものだった。

 最近のこういうものには勝手に目の大きさや足の太さなどを修正してくれるらしい。けど、そんな作られたモノである七海の姿より、本物の七海の方が幾分も魅力的な気がする、なんてことを思う。

 その後、再びUFOキャッチャーの景品を流すように見ていってから店の外に出る。

 そして、今度は別の方向に繁華街を歩いて行こうとした瞬間、ふと目についた店のウィンドウに奏はピタリと足を止めた。


「お姉ちゃん?」


 それに気づいて七海も足を止める。

 奏の視線の先にあるのは大型の楽器店だった。

 CDの類も扱っているようだったが、いわゆるCDショップとは大きく違ったもので、ショーウィンドウにはギターにベース、ヴァイオリンといった弦楽器からトランペットやフルートのような管楽器も並んでいた。店の奥には電子ピアノも並んでおり、そういった方面で幅広く扱っている店なのだろうということがすぐにわかった。


「ねぇ、七海」


 気がついた時には奏はすでに言葉を発していた。


「記憶を失う前の私は音楽……フルートをやっていたんだよね?」

「……何か覚えてるの?」


 雑踏の音が一枚の窓ガラスを挟んだ向こうから聞こえてくるかのような感覚がした。

 心の中で歯車が回ろうとしているのに、その相方がないのだ。歯車の相方は記憶の欠落と共になくなってしまった。


「はっきり覚えてるわけじゃないの。ただ、部屋にフルートとか楽譜みたいな音楽関係のものがたくさんあったから」

「あー……そう、だね……」


 七海の声のトーンが若干落ちる。

 もしかしたら、音楽のことはあまり深く聞かない方が良いのかもしれない。

 しかし、そう思ったのは一瞬のこと。その考えはすぐに消えていき、奏は再度口を開いた。


「今でもフルートを吹いたり、音楽を聞いたりすると凄く落ち着くの」

「やっぱり吹いてたんだ……」

「一人の時に、少しね。吹いてる時は全部が些細なことに思えて、気分が楽になる、って言えば良いかな? それこそ、記憶がないことすら些末なことに思えるくらいに」

「………………」

「七海。私は将来の夢とか言っていたことはある?」


 それははっきりと過去へと踏み込む質問だった。

 もしかしたらその影響で特定犯罪指数が上がったのかもしれない。

 孤独に再び落ちるのかもしれない。

 そう思ったが、言葉は止められなかった。


「例えば音楽大学に行きたいとか、音楽関係の仕事がしてみたい、とか。……正直、自分のフルートの腕前が上手いのかどうなのか自分じゃよくわからないの。比べる基準がないから、かな。良い音が出せてるし、結構上手いんじゃないかって思うこともあるんだけど……その、勘違いだったら恥ずかしいし……」


 そんな奏の言葉に、七海はきゅっと口元を結んで僅かに視線をそらせた。

 少しの沈黙が落ちてくる。

 周囲はうるさいくらいの音が溢れているはずなのに二人の間にだけ無音の帳が下りてきたかのようにすら感じられた。

 やはり聞かなかった方が良かっただろうか?

 そう奏が思うのと七海が口を開くのはほぼ同時だった。


「確かにお姉ちゃんは特定犯罪指数が超えるまでフルートをやってたんだよ。私から見ても、結構一生懸命に……」


 やっぱり、と思う。

 七海が言葉を続けた。


「でも……私はそっちのことは全然詳しくないからわからないけれど、やっぱり音楽一筋でずっとやっていくっていうのは大変みたいだった」

「それは進路とか、そういう意味で?」


 奏が問うと、七海は視線をそらせたままこくんと小さく頷いた。


「だから……夢とかは聞いたことがなかったけれど、これからフルートは趣味みたいな感じでやっていくってお姉ちゃんは言ってた」

「趣味?」

「うん」


 七海が両手の指を合わせ、少しもごもごと口ごもるようにする。普段は爛々としている目に陰が落ち、どこか口にするのを躊躇っているように見えた。

 もしかしたら自分は七海にとっても残酷なことを口にさせているのかもしれない。

 そう思いながらも奏は七海の言葉を待った。


「お姉ちゃん自身、踏ん切りがついていたかはわかんない。けど、特定犯罪指数が超えるちょっと前のお姉ちゃんは、少し苦しそうに見えた、かな」

「………………」


 有り得る話だ、と奏は思った。

 自分はフルートが……音楽が好きだったのは間違いないだろう。

 けれど、好きだからといって全てが上手くいく、なんていう風に世の中は出来ていない。むしろその逆のことの方が多いに違いない。

 きっと自分もそうだったのだ。

 それが特定犯罪指数に影響を及ぼしたかどうか、今となってはわからない。でも、きっかけの一つとなっていてもおかしくはないだろう。


「ごめんね、七海」

「お姉ちゃん?」


 ポツリと謝った奏に七海が視線を向ける。

 眉を若干ハの字にしたその表情はどこかご主人さまに叱られた犬を思わせるものがあった。

 仲の良い姉妹だったのなら、彼女にとっても辛いことを口にさせてしまった。


「行こうか。あんまりぐずぐずしてると遅くなっちゃう」


 無理に明るい声を出して奏は言った。

 お姉ちゃん、と七海が声に出しかけるが、これ以上この話題を続けたところで何になるわけでもない。

 手を差し出し、奏の方から掴むように七海の手を取る。触れた手の熱さ。それとは引き換えに頭は妙にどこか冷めながらも渦巻くようなものを感じていた。

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