第13話 奥義
月夜動乱から数日。都はすっかり元通りになっていた。
「これぐらい慣れたもんさね」
とは都に住む住人の言だ。なんと頼もしい。
天童麗夜は療養を余儀なくされていた。
「全く、我ながら情けない。あの程度の羽虫に後れを取るとはな」
ふてぶてしい態度は相変わらずだ。
「これからどうするんですか」
陽太は聞く。麗夜はふと考えながら。
「まあ都の防衛は下の武士で事足りるだろう。しばらくはあれ程の強さの天狗は現れまい。それよりもだ陽太。お前に提案がある」
「提案?」
「ああそうだ。中天の都に行ってみないか」
「中天の都って、日ノ出ノ型を伝承しているっていう?」
「そうだ。そこでお前は奥義を覚えるんだ。俺でも習得出来なかった奥義を」
「麗夜さんですら無理だった奥義を俺が!?」
「謙遜するな。あのオラスを退けたのは紛れもなくお前だろう」
「それは必死に技を繰り出していただけで……」
「それでいい戦いとはそういうものだ」
「はあ……」
そこに姫華が現れる。カラスもいる。
「なになに、次の目的地の話?」
「聞いてたぜ、中天の都だと魔縁様の都へは少し遠回りになるぞ」
「うーむ……」
麗夜が口を挟む。
「陽太、言っては悪いが今のお前では大天狗には勝てない」
「……」
「オラスは強敵だった。しかし奴はどうにも下っ端のような気がしてならない」
「そんな、あんなに強かったのに」
「まあ単なる下っ端ではないだろうが、おいカラスとやらお前は何か知らないのか」
「『豪速のオラス』と言ったら使い天狗の中じゃ五本指に入る強さだったがなぁ」
「その『使い天狗』というのが下っ端の証なのだろう?」
「まあ……そうなるな」
「下っ端相手に不意打ちで勝ってるようじゃ駄目って事か……」
「行ってみようよ中天の都」
姫華が提案する。カラスはどうでもいい感じで。
「まあ俺は急いでないし構わないが」
「……行くか」
陽太は覚悟を決める。次目指すは中天の都。日ノ出の演武が伝わる業の都。
「道案内を付けよう。おい、お栄を呼んでくれ」
麗夜が使いの者に指示を出す。するとしばらくして一人の女性が現れる。長い黒髪に隠れた目、どこか不気味ながら黒い着物をきっちり着こなしている格好良さも持ち合わせている。
「お初にお目にかかります。お栄と申します」
「陽太です」「姫華デス!」「クェラス」
「お栄、中天の都への道案内、頼めるな?」
「はい、仰せの通りに」
「こう見えてもお栄は月光の巫女だ。そこの巫女と同じくらい役に立つだろうよ」
姫華を指さす麗夜。
「巫女! 私、自分以外の巫女さんに会うの初めてです!」
「わたくしもでございます。どうかよしなに」
「出発はいつにする」
「早い方が良いかと」
「だな、陽太、数日中には此処を出ろ」
「それはまた……急ですね」
「これは月夜の都のためでもある。鎧天と月天が両方あるなどと天狗に知られたら徹底的に此処を責められかねん」
「なるほど」
そこでカラスが毒づいた。
「結局は保身か」
「おいカラス!」
「構わん、これも全て民のためだ。なんと言われようとな」
「麗夜さん……今まで短い間ですがお世話になりました」
「こちらこそよくぞ都を守ってくれた、改めて礼を言う」
「では俺達は旅の支度を始めます」
「ああ、気を付けてな」
その場を後にする陽太一行。麗夜はその背中を見送っていた。
「お前ならきっと……」
その呟きは陽太には聞こえなかった。
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