第18話 日入の都


「天狗の里にはこっから日入ひのいりの都に行ってから、さらに船で行く」

「天狗の里ってのは島なのか?」

 馬上、長やお栄さんと別れ。麗夜から譲り受けた日出丸達と共に。日入の都に向かう中。カラスと陽太が話す。

「如何にも、海の孤島、天然の要塞よ」

「なるほど、それは厄介だな。正面突破しかなさそうか……」

「だろうな。魔縁を暗殺出来るルートがあれば教えてるが、残念、そんなものはない」

「るーと?」

 姫華が首を傾げる。

「それまでの道って事だよお嬢さん……っと見えて来たな日入の都だ」

 カラスが指さす先、そこには見事な港町があった。

「待て……なんだアレ。天狗の……面?」

 行き交う人々が面を被っていた。

「ああそうだ。日入の都は天狗に支配された妖魔と人間の共存する町だ」

「何……だって?」

 妖魔と人間の共存? そんなものがあり得るのかと陽太は疑問に思う。そういえばこの都には霊木の杭で造った結界の壁が無い。天狗の加護があるから必要ないという事なのだろうか。

「天狗に支配されてるってもう敵地って事じゃない!」

 姫華が叫ぶ。カラスが顔の前で人差し指を立てる。

「しーっ。声がデカいぜお嬢ちゃん。一先ずは面を買いに行こう。それでごまかせる。それに」

 そこでカラスが変化を解いた。金髪の優男から鳥面人型の怪物へと姿を変える。

「俺と一緒に居れば、しばらくは疑われない。しばらくはな」

 顔を見合わせる陽太と姫華。

「「その羽根で?」」

 ふと自らの背中を見やるカラス。

「しまった……そういや俺、羽根斬られてるんだったーー!」

 羽根の斬られた天狗に寄りそう人間、それは日入の都の人間にどう映るのだろうか。

「いや、まあいい俺の羽根の事は俺の幻術でなんとかする。後の問題は船の手配だけだ。天狗の里への船はどうやって確保するか……」

「それなんだが、天狗の里へは俺一人で飛んで行くっていうのは」

「却下よ」

 にべもなく姫華が言う。

「お前達にも危険が無くていい判断だろ?」

「俺的にはウェルカムだが。勝率的には無しだな」

 カラスにも却下される。

「カラスお前まで。なんでだ」

「いざとなった時、誰が持ってきた日ノ出小刀を溶かすんだ?」

「それは……」

 日ノ出小刀、それは元々、鎧天の一部だったもの。それを溶かし元の鎧天と融合させるには天狗の炎が必要だ。しかし大天狗魔縁を討つという陽太に協力する天狗などカラスしかいない。

「今の鎧天じゃ魔縁を倒せないって言うのか?」

「はっきり言って五分五分だ。それにお嬢ちゃんの封印の力も借りた方が良い」

「そうよ! 私だってここまで来たんだから役に立ってみせるわ!」

「姫華……」

 中天の都、心の修行の事を思い出す。姫華を死なせたくはなかった。出来れば戦場に連れて行きたくはない陽太。

 しかし覚悟を決める。

「分かった。船で行こう」

 こうして日入の都へと入って行った三人。面を買い港へ向かう。


 鴎の飛ぶ港の一角、船着き場にたどり着く。

 漁師の一人が駆け寄って来た。

「これはこれは天狗様。いかがなされました」

 天狗の面を被った漁師、カラスに跪く様子を見て、本当に天狗に支配されているのだと実感する。

「実は羽根を痛めてしまってな。このままでは里に戻れない。ゆえに天狗の里へ戻る船を借りたい」

 何もない背中の空中を労わる様にさするカラス。

「それはいけねぇ! ええ船ですね。お貸ししますとも……で、そこの二人は?」

「魔縁様への土産だ」

「あっ、なるほど……かしこまりましたっ!」

 そそくさと船を取りに行く漁師。

「誰が土産だ」

「良いだろ、思い切り喰らわせてやれ」

「……そういう意味か」


「船の準備が出来ましたぁ」

「すごいな、この船、陽気で動くのか」

 陽太のその発言を聞いて漁師は面の中で怪訝な顔をした。

(生贄の癖に余裕があるな……)

「では、頼む」

 こうして船は海へ出た。

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