第17話 技の修行


「これより奥義習得の儀に入る! 演武用意!」

 長の掛け声で襖が開く。そこあったのは伽藍洞の鎧武者だった。

「部屋に満ちる陽気で勝手に動く空繰からくり仕掛けの鎧だ。日ノ出大太刀を持たせてある。遠慮なく斬りかかれ」

「押忍!」

 日ノ出・一閃。極光が迸る。それを大跳びで躱す鎧。そこに日ノ出・天昇を叩きこむ陽太。

「取った!」

「まだだ!」

「えっ……うわっ!?」

 日ノ出・天昇を受けてなお動く鎧の一撃をモロに喰らう陽太。日鱗が無ければ斬られていただろう。

 着地する鎧。そこに下掃いしたばらをかける。

「夕暮・蓮華!」

 鎧はそれを日ノ出大太刀で受け止める。ガキィンと金属と金属がぶつかり合う激しい音が響き、陽光が辺りを照らす。

「くっ、日ノ出・穿孔!」

 これもまた受け止められる。完全に動きが読まれている。

「中天・日輪車ぁ!」

 横薙ぎの一回転、極光が渦を巻く。しかしそれに飲まれる事無く。受け流す鎧。

「月天・触終!」

 とうとう我流の技まで出す羽目になる。しかし意外、その攻撃は鎧を捉える事に成功する。

(我流の技なら通る……?)

 ならばここで技を生み出すしかない。ぶっつけ本番。一発勝負だ。

 上から下への一閃を喰らいよろめく鎧に向け剣を構える。

「我流……日ノ出・爪撃!」

 一呼吸に放つ三連撃。その軌跡は獣の爪痕に似ていた。

 鎧に攻撃が入る。この調子で技を生み出し続けるしかない。そう悟った陽太は剣をさらに強く握りしめる。

「我流日ノ出・討滅!」

 陽気を集中して光線として放つ。その極光の波に飲まれて霞む鎧。さらに一撃を見舞うべく構える陽太。

「我流中天・炎天渦!」

 日輪車が横の一回転ならば炎天渦は縦の一回転。極光の丸い刃が切り裂きにかかる。まさしく光輪である。

 鎧の損傷が激しくなる。次がとどめとなるだろう。一呼吸。そして放つ。考えうる必殺の一撃を。

「日ノ出・乱舞!」

 今までの全ての技を叩きこむ。躱す隙は与えない。これで勝った。そう思った時だった。鎧の動きが明らかに変わった。全ての技をいなしていく。

「一つ言い忘れておったがの」

 乱舞の途中、長から声がかかる。

「そやつに二度、同じ技は通じん。そういう風に出来ておる」

 全ての技を見切られている。そう伝えられ思わず瞠目する。乱舞は止まらない。しかし全ていなされ躱され御されてしまう。

 そして、乱舞が終わる頃。力尽きて思わず攻撃の手を止める陽太の姿。鎧はその隙を逃さない。頭蓋に向けて思い切り日ノ出大太刀を振り下ろす。それを躱す事が出来なかった陽太はその場に倒れ伏す。

「そこまで! 演武閉幕!」

 鎧が奥へと引っ込み襖が閉じる。こうして第一回、技の修行は失敗に終わったのであった。

 

「お前に覚えてもらう奥義がある」

 長が倒れ込む陽太に言う。

「それは、あの鎧にも大天狗にも勝てるものですか……」

「全てはお主自身、己次第じゃよ」

 それから奥義習得の修行が始まった。その名も『炎武・日ノ出撃弾』陽気を用いて己が分身を作り出し、それぞれに技を繰り出させるという代物だった。一個の技にしか対応できない鎧では、その技を全てさばききる事が出来ないのだと言う。あの鎧でそうならば他の妖魔とてそうであろう。かの大天狗であろうともだという話だ。あくまで陽太が使いこなせればの話だが。

 まずは分身を出すところから始める。

「お前に覚えてもらう奥義がある」

 長が倒れ込む陽太に言う。

「それは、あの鎧にも大天狗にも勝てるものですか……」

「全てはお主自身、己次第じゃよ」

 それから奥義習得の修行が始まった。その名も『炎武・日ノ出撃弾』陽気を用いて己が分身を作り出し、それぞれに技を繰り出させるという代物だった。一個の技にしか対応できない鎧では、その技を全てさばききる事が出来ないのだと言う。あの鎧でそうならば他の妖魔とてそうであろう。かの大天狗であろうともだという話だ。あくまで陽太が使いこなせればの話だが。

 まずは分身を出すところから始める。陽気で自分の姿を想像する。朧気に立ち上がる光の分身。しかし、少し意識を他所へとやるだけで霧散する。

「気を散らすな!」

 長の激昂が飛ぶ。

 再び集中に入る。分身がゆっくりと立ち上がる。そこからはひたすらに意識を研ぎ澄ます事に重きを置く。まずは一体でも分身をと陽太は力を込める。

「まず一体」

 長が集中する陽太に変わり現れた分身を数える。一呼吸。分身は……崩れない。

 さらに隣に立つ己が姿を想像する。光が人を形作る。

「二体目」

 それをさらに三つ、四つと増やしていく。

 そして――

「十! ま、及第点じゃの」

 十体の分身が陽太の周りを取り囲む。

「次は、その分身を動かして技を繰り出せ!」

「押忍!」

 一体目、日ノ出・一閃を繰り出そうとする。すると途中で陽気が霧散し分身が消える。

「そんな……」

「一度の失敗で諦めるな! もう一度、分身を出せ!」

「押忍!」

 意識を研ぎ澄まし己の姿を投影――いや《《投光》》する。

「一! 日ノ出・一閃!」

 分身が動き出す。居合の構え、もう霧散しない。放つ極光。

「二! 日ノ出・天昇!」

 斬り上げを放つ分身。

「三! 日ノ出・穿孔!」

 敵を穿ち貫く一突きを放つ分身。

「四! 夕暮・蓮華!」

 下掃いを繰り出す分身。

「五! 中天・日輪車!」

 分身の一体が横薙ぎの一回転を繰り出した。

「六! 日ノ出・爪撃!」

 獣の爪痕を思わせる光跡を残す三連撃を放つ分身。

「七! 日ノ出・討滅!」

 一筋の閃光が分身の切っ先から放たれる。

「八! 月天・触終!」

 縦斬りの一文字が分身から繰り出される。

「九! 中天・炎天渦!」

 真っ直ぐの光輪が分身より打ち出される。

「十! 日ノ出・乱舞!」

 今までの技全てを連続で披露する全ての締め。分身は人間の肉体を超えた速度でそれを撃ち放つ。

「炎武・日ノ出撃弾! ここに完成!」

 陽太の声が飛ぶ。長は満足そうに笑いながら。

「ま、及第点じゃな」

 と言った。


 鎧戦。襖が開く。

「演舞、開幕!」

 陽太は深く呼吸をする。

「炎武・日ノ出撃弾! 開幕!」

 十体の分身が一斉に陽太の周りに立ち昇る。そしてそれがそれぞれの技を同時に放つ。鎧はそれ全てに対応する事が出来ない。ゆえにその一瞬で木っ端微塵と化したのだった。

「炎武・日ノ出撃弾! これにて閉幕!」

「演舞、閉幕!」

 鎧が消え襖が閉じる。

 これで奥義は習得した。長も微笑んでいる。

 さあさあ、下準備はここまで。

 行くは大天狗魔縁の居る天狗の里。

 いざ行かん魔境へと。

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