第9話 月夜の都

 

 龍神との戦いの後、さらに魔縁の居る天狗の都を目指して進む陽太御一行。カラス曰く、「まだまだ先だ」という事で三度みたび、都で宿を取る。そこは月夜げつやの都と言った。

「ここが月夜……大きいな、向こうに城が見える」

 陽太が感嘆の意を漏らす。

「かの月夜の都といえば城下町としてとても有名よ。天下の大将軍、天童麗夜てんどうれいや様が『月天』を駆って辺りの妖魔を一掃したらしいわ」

「月天?」

「鎧天と対を為す武具の事よ」

「そんなものがここに……」

 その時、カラスが忌々しそうに呟いた。

「じゃあかもな……いやもうおいでなすったみたいだな」

 遠くから鐘の音と男の声、遠くに見える物見櫓からである。

だ! 天狗が来たぞ!」

「なにっ!?」

 空を見上げる陽太、そこに見えるは黒い影。一匹二匹ではない、群れとなって城の天守閣を目指していた。

『オン・ガルダヤ・ソワカ!』

 すぐさま鎧天を纏い疾駆する陽太、しかしその時だった。

 天守閣から閃いた三日月状の輝きが天狗の群れを一掃してしまったではないか。

「なんだ今の……!?」

 驚きながら天狗の群れがいた空中へとたどり着く陽太。そこには一匹の天狗がいまだ生き残っていた。

『おのれ、天童麗夜……! む。なんだ貴様は……む、それは鎧天! 貴様、天朝の者か! これは一石二鳥! 鎧天と月天、療法とも我がものとして魔縁様のもとへ持ち帰ろうぞ!』

 がははと笑う大柄な天狗、陽太はその天狗に切っ先を向ける。瞬間。

「舐められたものだな」

 隣に人の気配がふっと湧いて出た。それは鎧天によく似た白銀の鎧武者であった。

「天朝からの使者よ。碌なもてなしも出来ずすまない。だが今は目の前の羽虫を叩き落そうではないか」

「お、応」

 これが噂の月天、この人が噂の大将軍、天童麗夜。その雰囲気からは強者のそれが感じ取れた。

「む、羽虫とは我の事か? このオラス様が弱く見られたものだな」

「ふっ、俺からしたら妖魔などどれも虫同然よ、お前は羽根が生えておるから羽虫というわけだ。ただの虫よりは評価してやっているつもりだぞ?」

「む、天童麗夜。それ以上我を侮辱するならば容赦はせん。月天に傷をつけても持ち帰る事になる。血で汚しても構わんと魔縁様にも許可を得ている」

「それは脅しのつもりか?」

「む、ただの真実よ」

 見えなかった。陽太にはその一瞬の激突が見えなかった。天狗の羽根が舞う。その時ようやく麗夜とオラスがぶつかり合ったのだと悟った。

「な……」

 バチン! バチン! と空中で火花が散る。それを目でとらえる事が出来ない。

「一体、なにが起きてるんだ……」

 戦っている。それは陽太にも分かる。しかし見えない。速過ぎるのだ。あまりの速さに目で追う事も出来ない。

「む、鎧天。貴様は動かんのか?」

「え」

 一撃だった。胸板に一発、掌底が入る。オラスの一撃が陽太を捉えたのだ。

「かはっ」

 空中から落下する陽太。地面に激突する。

 空中では変わらず火花が散っている。

「あ……」

 宙へ手を伸ばす。届かない。自分の力ではあそこに届かない。

 陽太の意識はそこで途切れた。

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