第21話 魔縁
島の中央、山の頂点。そこには荘厳な社があった。しかしそれは真っ二つに裂けていた。
「ここまで届いてたのか旦那の攻撃」
「鎧天は山をも斬るからな」
「そんな事より、もう魔縁は目の前なんでしょ!?」
姫華がそう言った瞬間。真っ二つの社の中から黒い陰気が吹き出して来た。辺りを暗闇に閉ざそうとする。陽太は日鱗を最大限に発揮し対抗する。
「よくぞここまで鎧天を届けてくれたなクェラスよ」
「……魔縁」
現れたのは三対六枚羽を持つ鳥面人型。
「お前が魔縁か……!」
「如何にも! 我こそは大天狗魔縁! この世を統べる者なり!」
「何を世迷言を!」
「お前も分かっているはずだ鎧天の力は絶大だ。その力があれば世界とて手の中に納められる」
「その前にお前は死ぬ!」
「やって見せろ人間! この魔縁。今までの天狗とは比べものになどならぬぞ!」
居合の型、日ノ出・一閃を放つ。極光が陰気の暗闇を切り裂く。しかし魔縁まで届かない。
「日ノ出・穿孔!」
敵を討ち貫く一突きを放つ。しかしそれを魔縁は人差し指一本で受け止めた。
「弱い。弱すぎる」
(出し惜しみしてる場合じゃないか……!?)
陽太は考える。最初から本気で行くべきかどうか。しかし迷ってる暇はない。今はやるしかない。
「炎武・日ノ出撃弾! 開幕!」
十体の分身が出現する。それぞれがそれぞれの技を放つ。十体同時攻撃。これを受け止められるはずがない!
一。日ノ出・一閃。陰気の壁を取り払う。二、日ノ出・天昇、斬り上げに魔縁が初めて回避行動に移った。三、日ノ出・穿孔。再び人差し指で受け止められてしまう。四、夕暮・蓮華、下への斬りはらいで足元を狙う。それを見て飛び上がり躱す魔縁、五、中天・炎天渦。縦一回転の光輪を斬り放つ。それを手のひらで受け止める魔縁。その腕に傷が出来る。六・月天・触終、縦一文字の一撃をもう片方の腕で受け止める魔縁。腕が切り裂かれ血が迸る。七、日ノ出・爪撃。三連の刃が囲むように魔縁を狙う。魔縁はそれをまともに受ける。八、日ノ出・討滅、閃光が魔縁に向かい突撃する。光線をまともに喰らい地に落ちる魔縁。そこに放つ九、中天・日輪車、極光の渦が魔縁を飲み込む。十、日ノ出・乱舞。今までの技を高速で放つ連撃にたまらず魔縁は膝を附く。
「貰ったぁ!」
魔縁の首を狙い斬りかかる陽太。しかしそこで変化が起きた。魔縁の周りに膨大な陰気が渦巻いた。
「陽気の供給ご苦労! これで我は万全となった! 起動せよ懐器・
そこには鎧天にそっくりの紫色の鎧武者が居た。
「あれは……!?」
「俺も知らないぞあんなの!」
「とても嫌な気配……」
魔縁がほくそ笑む。
「対鎧天用の武装、懐器・日蝕、陽気を陰気へと変換し力に変える。しかしその起動には大量の陽気を必要とした。しかしお前のおかげでそれも溜まったというわけだ!」
「始めから、それが狙いで……!」
「如何にも、さあ鎧天を貰おうか。正確にはその膨大な陽気を」
「まだだ! まだ炎武は終わってない!」
十体の分身が再び立ち上がる。
「悪あがきを……せいぜい日蝕の餌となれ!」
型などもう意味をなさなかった。分身で一斉に斬りかかる。今の陽太にはそれしか戦い方が分からなかった。
「無謀に突っ込みやがって!」
カラスが幻術で援護する。今の魔縁には分身の数が揺らぎ増えて見えているはずだ。
「行って光輪!」
姫華も魔縁に向けて封印の光輪を投げる。
しかし。
「破ッ!」
強大な陰気がそれら全てを吹き飛ばす。
「ぐあああああああ!!」
吹き飛ばされる陽太達。一気に窮地へと追い込まれる陽太。
「陽太! 姫華! 俺の封印を解け! 日ノ出小刀を溶かす時だ!」
「クェラス、お前はどちらにつくと言うのだ。この状況で」
「姫華! やれ!」
「……うん!」
姫華が印を結ぶ。カラスを縛っていた不可視の光輪が消えてなくなる。
「魔縁様……」
緊張の一瞬。カラスが再び魔縁に付く可能性も捨てきれない。だがカラスを信じて陽太は日ノ出小刀を背中の箱から取り出す。百八つの重し。それにようやく意味が生まれる。
「俺は、勝てる方に賭ける!」
カラスから天狗の炎が放たれる。それが陽太を包み込む。日ノ出小刀が溶けていく。そして鎧天と融合し形を変えていく。
「クェラス! 貴様ぁ!」
その威容は鎧武者に留まらず地上に降りた戦神を思わせる。ものであった。尖った肩、逞しき角。巨大な両手剣。要塞のような具足。まさしく鎧天の名に相応しい姿であった。
「たかが小刀の力を吸収した程度で!」
「言ったはずだ。まだ炎武は終わっていないと!」
繰り出した分身の数、およそ百体。
「な、馬鹿な人間にこれほどの陽気を扱えるはずがない!」
「さあさあご照覧! 大天狗魔縁を討ち祓う大炎武! これぞ我が陽光の神髄なり!」
分身の一体が剣を横薙ぎに振り払う。それだけで轟音が鳴り響く。風切り音が爆音と化したのだ。
「大日ノ出・一閃!」
極光は魔縁を捕らえ離さない。
「馬鹿な、人間如きに!」
魔縁の日蝕は陽気を吸収し陰気に変えるが、それを上回る量の陽気が流れ込む。
「大日ノ出・穿孔、天昇、爪撃、討滅!」
繰り出される連撃に魔縁の防御は間に合わない。
「大夕暮・蓮華! 大月天・触終!」
分身が一斉に下掃いと上からの真一文字の斬り下げを繰り出す。たまらず空へと逃げる魔縁。
そこに分身が先回りしていた。
「中天・日輪車! 炎天渦!」
縦回転と横回転の光輪が空中を席捲する。それらに切り刻まれ墜落する魔縁。
「こうなれば……」
その時、魔縁の放った陰気が陽太の横を通り抜け姫華とカラスに届いた。
「ふ、ふはははは! 今、そ奴らに死の呪いをかけた! 生かしたくば鎧天を置いて――」
「覚悟は出来てる」
「行け旦那」
「やっちゃえ陽太ぁ!」
剣を構え突貫する陽太。目指すは魔縁の心臓一直線。なんの型にもはまらない、ただの一撃。しかし魔縁の強大な陰気を押しのけ巨大な両手剣が懐器・日蝕を貫き魔縁の背中から飛び出した。
終わった。
魔縁は息絶えた。
陽太は両手剣を投げだし。カラスと姫華の下へと駆け寄る。
二人に息はない。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
やはりこうなってしまった。だから二人を戦場へと連れて来たくなかった。
だがこれで天狗との戦争の決着はついた。
その時だった。
けほ、という小さい咳が聞こえた姫華の方からだった。
「姫華!? おい姫華!!」
「よ、陽太……」
「良かった生きてる……! 本当に良かった……!」
そこではっとなる。カラスはカラスはどうだ。
「おいカラス、お前も生きてるんじゃないのか……なあおい……」
傍に近寄りカラスの身体を揺さぶる陽太。
「カハッ!? はぁはぁ……なんとか上手く行ったみたいだな……」
「カラス!」
「ふっ、やっぱり俺の事も心配してんじゃないのさ旦那」
「そんな事言ってる場合か馬鹿野郎!」
「俺の呪術返しが上手く行ったおかげなんだぜ? 馬鹿野郎はないだろう」
「呪術返し……そっかお前呪術得意だったもんな」
「大天狗に効くのかは賭けだったけどな。俺は勝てる方にベットしたぜ」
「ははっ、お前らしいよ」
こうして少年の復讐劇は幕を閉じた。
陽太はこの後、天狗の加護を失った日入の都を守るため、そこに残る事を決意する。そこには姫華も同行する事になった。
カラスは再び海外へと旅に出るらしい。
こうして三人の旅も終わりを告げるのだった。
完
妖魔斬刀・鎧天 亜未田久志 @abky-6102
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