第20話 天狗の里


 海魔の騒動が嘘だったかのように天狗の里である島へと到着する一行。船を操縦していた漁師はすぐさま引き返し逃げてしまった。

「これで帰る手段も無くなったと」

「いよいよ修羅場だぜ旦那」

「やるしかないよ陽太」

「よし行くぞ!」

 天狗の里、その島の中へと足を踏み入れる。


 天狗、天狗、天狗、の嵐。何匹いるかも分からない天狗が一斉に襲い掛かってくる。

「鎧天! 寄越せ!」

「魔縁様に献上する! 寄越せ!」

「寄越せ! 寄越せ!」

 寄越せ寄越せと怒号が鳴りやまない。それを無視して陽太は鎧天にて斬り捨てる。

「日ノ出・一閃!」

 数匹の天狗を一網打尽にする。しかしどこから湧いて出るのか、その数は減るよりもむしろ増えている。

「封印! 日ノ出光輪!」

 姫華も巫女の力で天狗を抑えつける。そしてカラスも。

「お前らの敵はこっちだぜ?」

「何!? 鎧天が二体!? どうなってる!?」

「隙あり!」

 カラスが幻術で作った隙を見逃さず斬り捨てる。

「クソッ、でもこれじゃキリが無い!」

「頭を使おうぜ旦那。何も全員の相手をする必要はない。頭の魔縁さえ倒しちまえばこいつら戦意喪失する」

「その肝心の魔縁はどこにいる!?」

「さてね……奥に居るのは間違いないが……」

「結局、この天狗の群れを超えて先に進まなきゃならないんじゃないか!」

「ハハッ、悪いそうなる」

「だったら本気で行く!」

「ちょっと陽太!? 何するつもり!?」

 陽光が鎧天の剣へと集まって行く。それは光の柱となり文字通り天まで貫いた。当たった雲に穴が開く。

「チェスト--!」

 ズドドドドドドという轟音と共に島が切り開かれていく。山をも斬る鎧天の本領発揮。

 さらにそれだけではない。横薙ぎに剣を振るい天狗共を一網打尽にしてみせる。

「はぁはぁ! どうだ! 出てこい大天狗魔縁!」

 しかし返事はない。まさか不在という事はあるまい。カラスに確認を取る陽太。

「本当に此処に居るんだろうな!?」

 しかしカラスはそれには答えず冷や汗を流していた。

「……おいカラス?」

「おいでなすったぜ。だ……!」

 そこには四つの影、それぞれが屈強な身体つきをしている。

「四天王が第一アラス」

「四天王が第二イラス」

「四天王が第三ウラス」

「四天王が第四エラス」

 四匹の天狗が声を揃えて言う。

『我ら魔縁様親衛隊! いざ尋常に勝負!』

 カラスが忠告してくる。

「言っとくがこいつらはあのオラスよりも強い。覚悟してかかれ……」

「言われなくても……!」

 そこでアラスと名乗った人物がカラスに声をかけた。

「クェラス、何故裏切った。海外遠征を任されるほどのお前が人間に与するなど」

「勝てそうな方に賭けただけですよ……」

「我らが負けるとでも?」

 そこで陽太が口を挟む。

「ああ、俺が勝つ!」

「ほざけ人間。鎧天の力を手に入れ調子に乗っているように見える我らが力の前では所詮、人間如きでは敵わぬと知れ。鎧天は我ら天狗にこそ相応しい。我らが魔縁様にこそ相応しいのだ!」

「言いたい事はそれだけか? 始めさせてもらうぞ……!」

「来い、試してやる」

 剣を鞘に納め構える。居合の型。

「日ノ出・一閃!」

 迸る極光。アラスはそれを避けもせずに真正面から受け止めた。しかし受け止めた腕が焼け焦げている。

「ふむ、なかなかやる」

 焼け焦げた腕はすぐさま再生し元の姿に戻った。そして敵も動き出す。イラスが突撃をかまして来る。

「隙あり!」

「隙などあるものか!」

 日ノ出・天昇、斬り上げにて迎撃を放つ。しかしそれを躱され懐に飛び込まれる。

「技の選択が甘いね」

 蹴りが放たれる。日鱗の防御の上からでもかなりの衝撃が伴い、吹き飛ばされる.吹き飛ばされた先、ウラスが待ち構えていた。

「はぁっ!!」

 掌底、鳩尾に見事に入る。日鱗が無ければ意識を失って、いや上半身が吹き飛んでいたに違いない。

 吹き飛ばされた先、態勢を立て直そうとする陽太にエラスの一撃が待っていた。

「触!」

 ずんっ! と陽気を吸われる感覚。力が抜けていく。

「こいつら……!」

「そんなものか人間」

 その時だった。姫華の叫び飛ぶ。

「陽太!」

 封印の光輪が陽太の後ろから四天王目掛け飛んで行く。

「ふっ、こんなもの」

 アラスが颯爽と躱そうとしたその時。光輪がブレた。

「何?」

 封印の光輪に縛られる四天王達。

「どうですか俺の幻術は四天王様」

「クェラスゥ!!」

 好機だ。陽太は分身を投光させた。まだ魔縁との戦いが残っている。力は温存しておきたい。分身の数は四体に抑える。

「簡易炎武・日ノ出撃弾! 開園!」

 日ノ出・一閃、日ノ出・天昇、日ノ出・穿孔、日ノ出・爪撃。

 四天王にそれぞれの分身が技を繰り出す。吹き飛ぶ四天王。しかしそれだけではまだ倒れない。

「全員、一斉日ノ出・乱舞!」

 全ての技を繰り出す日ノ出・乱舞を追撃に仕掛ける。四天王は封印の光輪を自力で打ち破り真っ向からそれを受け止める。

「止めてみやがれぇぇぇ!!」

「調子に乗るなよ人間!!」

 四体の分身の日ノ出・乱舞が終わる。そこには満身創痍の四天王の姿があった。

「まだだ! まだ負けんぞ!」

「その体で何が出来る!」

 剣を構え、突貫する陽太四天王の中心に飛び込む。一斉に飛び掛かってくる四天王。

「中天・日輪車!」

 極光の渦、輝く陽光の中で四天王の姿が霞んでいく。しかし腕だけ残った四体が陽太の首に掴みかかる。

「取った!」

 口などもうないはずなのに何処からかアラスの声がする。

 しかし、陽太の姿は朧気になって消えてしまう。

「まさか、幻術……!? クェラスゥゥゥゥ!!」

 四天王共の腕を極光で消し飛ばす陽太。

「……助かった」

「礼は魔縁を倒してだぜ旦那」

「……ああ」

 島を切り裂き横薙ぎに極光を振るい森も無くなった島の奥を進む目指すは山の頂上。そこに魔縁がいるとカラスは言う。

 一行は最後の戦いへと足を進めるのだった。


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