第11話 修行


「日ノ出・天昇!」

 天高く斬り上げる演武。木に吊るされた的に向かって技を放つ。

「低い!」

 麗夜の激昂の声、その言葉通り陽太の剣は的に届いていなかった。

「陽気を固めた足場ばかりに頼ってきた弊害だ。もっと周りの陽気の流れを掴んでそれに乗るんだ」

「陽気の流れ……」

 目を閉じて必死に感じ取ろうとするも、感覚がするりと抜けて通り過ぎて行く。

 陽気というものに鎧天を纏ってようやく知った陽太にとってそれを意識的に感じ取るのは苦難であった。

「すぅー……」

 深く息を吸う。狙うのは的じゃない。さらに天高く向こうの空。剣を構える、

「日ノ出……天昇!」

 ふわっと身体が浮かび上がる、かつんっと的に剣が当たる音がした。

「やった」

 陽太がぐっと拳を握るが、麗夜は首を横に振る。

「惜しいな、的を斬れていない。もう一度だ」

 再び挑戦する、何度か繰り返す度にその精度はぐんぐんと上がって行った。陽気の流れとやらもぼんやりと掴んで来た。身体が自然にふわりと浮かび上がる。

 そこからさらに加速して飛び上がる。的が目の前まで迫る。天へ向け切っ先は弧を描く。一閃、的は真っ二つに斬り捨てられた。

「よし、次だ」

 麗夜が次の的を用意する。


「日ノ出・穿孔!」

 単純なつ突き技に見える。しかしそこに陽気のを加える事で攻撃力が増す。

「陽気の捻れが甘い!」

「押忍!」

そこからはひたすらに突きの素振りである。さらに陽太は先ほどの日ノ出・天昇の訓練の時から、日鱗つまりは防御の訓練を行っている。実はいつ麗夜の奇襲が行われるか分からない状態で訓練はおこなわれている。

「脇が甘い!」

「しまっ、痛」

 陽太は鎧天を纏っている、対する麗夜は着物姿に木刀だ。しかし的確に鎧天の隙間を突いて攻撃してくる。ゆえに打撃が入り痛みが伴う。

「日鱗は常に張っておけ。それが命取りになる」

「はい!」

 突きの訓練は続く。


「次は下段の技だ、準備はいいな?」

 用意された的、自分より目線は下に設置された藁束。

「……夕暮・蓮華」

 ひらり剣が一閃する。藁束はすとんと斬り落ちた。

「お見事、陽気の操り方が随分上手くなった。この短期間でよくぞここまで。この天童麗夜が保証しよう。お前には才能がある」

「はあはあ……一日中演武の練習をしていたんですが……それでもですか」

「普通は数か月、数年単位で覚える技の数々だ。鎧天の補助があるとはいえこれは誇っていい」

「はあ、ちなみに師匠はどれくらいで覚えたんです?」

「半日だ」

 さらりと言いのける。嘘は吐いて寄るようには見えない。

「はははっ、敵わないや」

「俺は特別だからな」

 皮肉に聞こえないのがこの人の凄いところだ。

「さて、これから重要な訓練を始める」

「まだ続けるんですか!?」

「これが一番重要な訓練だ。陽太、お前、あの羽虫と俺の戦い

 図星だった。核心だった。そう文字通りの目にも止まらぬ戦い。あの速さについていけなければ陽太に勝ち目は無い。

「どうすれば……」

「陽気の流れだ。今までの訓練を思い出せ。。目じゃなく感覚を信じろ。見たところ鎧天は攻めよりも受けを主体にした戦い方を想定しているようだ。俺の月天とは違ってな」

「月天は違うんですか?}

「ああ、おかげでお前に教えた演武は俺は実戦ではほぼ使えない」

「じゃあどうやって戦っているんですか?}

「狂乱の舞い。俺はそう呼んでる。型にもならない出来損ないの戦い方だ。正直、俺はお前が羨ましい与えられた力を十全に行使出来る得物を持っているのだから」

「俺に、出来るでしょうか」

 陽太が弱気を漏らす。麗夜は苦笑いで返す。

「やってもらわねば困る。大天狗を倒すのだろう? さあ無駄話も終わりだ。訓練の続きに移るぞ。これからの訓練には俺も月天を使用する。いいか終えの陽気を読め。目でなく肌で感じるんだ」

「……お願いします」

 そこから先、陽太は散々に痛めつけられる事となった。それはもう目も当てられないほどに。

 ようやく麗夜の攻撃を躱し、かつ一撃入れるまでに次の日の朝までつまりさらに丸一日かかったのだった。


「全身が痛い……」

 床に臥せる陽太、傍で麗夜が笑っている。

「はっはっはっ。すまんすまん。ついやり過ぎてしまった」

「これじゃいざという時戦えませんよ」

「それは困ったな。もうすぐ天狗の襲撃があるというのに」

 飛び上がる陽太。

「痛っ。どういう事ですそれ!?」

「あの羽虫、オラスとか言ったか。次は三日後、決着を付けに来ると捨て台詞を吐いて逃げて行ったのだ」

「そんな後一日じゃないですか!」

「ああだから今日は休んで明日に備えろ」

「……分かりました」

 大人しく床に就く陽太。麗夜はその顔を見てほっとしたように微笑む。

「……任せたぞ、この戦いお前にかかっている」

 小声で呟いたその声は、果たして陽太に届いたのか否か。

 戦が迫る。

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