高校生霊能力者
美香の話では、東京に女子高生の凄腕霊能力者がいて、その人にお願いすれば間違いなく解決する、らしい。なんでそんなことを彼女が知っているかといえば、以前親戚がお世話になったことがあるそうだ。
この世界には霊がいて、それを退治する人々がいる。恵自身、はっきりと霊の姿を見たことはなかったが、知識としてはあった。小学校の社会の授業で誰もが習うことだ。
国際霊能力者協会(International Psychic Association)、通称IPAと呼ばれる国際組織があり、そこには子供から大人まで、除霊可能なレベルの霊能力を有している者だけが登録されている。世界各国に支部があり、それぞれ国の直属機関として運営されている。
日本支部は各都道府県ごとに事務局を設置し、市民から霊に関する相談があった場合、担当の事務局が管轄内のIPA認定霊能力者と連携して除霊活動を行っている。
恵は神奈川県民のため、本来は神奈川事務局に連絡をするべきなのだが、美香の言う通り東京事務局に相談を持ちかけてみた。霊能力者を指名するなんてできるのだろうか、と半分ダメ元だったが、事務局の人は意外にも優しく、「確認してみるから、ちょっと待っていてね」と答えてくれた。
結果、特別に許可がおり、美香一押しの霊能力者に依頼をすることが叶ったのだが・・・。
早速話を聞きたいと言って、隣の県まで来てくれたこの二人。黒川咲南と、上野彰。どこからどう見ても、凄腕の霊能力者というより普通の高校生にしか見えない。
黒川咲南は綺麗なロングストレートの茶髪に、チャラチャラしすぎない程度に着崩したブラウスの制服姿。アーモンドのようにくっきりとした大きい目に端正な顔立ち。すごくモテそうだが、なんだか近寄り難い雰囲気をまとっている。
上野彰は黒髪で、学ランが似合う爽やかな青年、という感じだ。背が高くすらっとしているため、咲南と並んでいると、これ以上ないお似合いのカップルに見える。
2人は付き合っているのだろうか。喫茶店で向かい合いながらそんな風にぼうっと考えていると、
「では改めて確認を。今回依頼をしてくれた立花恵さんですね」
優しい口調で彰が言った。
「はい、そうです」
少し緊張しながら、答える。彰は笑顔で話しやすい雰囲気を醸し出しているが、隣に座る咲南はにこりともせずコーヒーに口をつけている。
「話を聞く前に、本人確認のために身分証の提示と、この紙に署名をお願いします」
そう言って差し出された一枚の紙には、「相談内容に虚偽がないこと」「可能な限り除霊に協力をすること」など確認事項が書かれていた。一通り読み、署名をして彰に渡す。身分証は生徒証でも大丈夫らしいので、それも見せた。
「ありがとう。恵さんは何か部活動とかしてるの?」
恵の緊張を感じ取ってか、彰がフランクに聞いてきた。
「あ、はい。一応、漫画部に」
「え、漫画描けるんだ。すごいね!」
素直に驚く彰。その表情を見て、なんだか人懐っこい犬みたいだ、と恵は思った。
「どんな漫画描いてるの?もしかして今持っていたり・・・」
「彰」
身を乗り出す彰を、いいから早く本題に入れ、と言わんばかりに制する咲南。その姿はさながら飼い主のようだ。
ハッとした彰が咳払いをし、姿勢を正す。
「えっと、では相談内容を聞かせてくれるかな?」
「はい。実は・・・」
恵は正直に全てを話した。
毎晩夜中の2時になると、部屋のドアをノックされ「遊ぼうよ」と誘われること。「遊ばない」と答えると、そのまま気配が消えて何も起きなくなること。今年の冬に7歳の弟を交通事故で亡くしていて、声の主はその弟であること。
「亡くなった弟さんが、毎晩君の部屋のドアをノックしてくる、ということだね。それが始まったのはいつ頃から?」
彰がメモを取りながら聞いてくる。
「3月に入ってすぐなので、2ヶ月くらい前からです」
「弟さんが亡くなったのは?」
「1月の末です」
なるほど、と頷く彰の横で、咲南が空になったコーヒーカップを置き、言った。
「家に行っていい?」
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