今日、いいですか?

「とにかく大丈夫だから、返しに行ってあげたら」


 という咲南の言葉に従い、放課後彰は一年B組へと足を運んだ。


 ちょうどHRが終わったところのようで、まだ大半の生徒が教室に残っていた。


 教室の入り口から中を覗いていると、近くにいた眼鏡の女子生徒に声をかけられた。


「あの、誰かに用事ですか?」


「あ、えーっと・・・」

 

 名前なんだっけ、と焦っていると、


「上野先輩!」

 

 彰の存在に気づいた愛菜美が駆け寄ってきた。


「いてよかった。これ」


 渡そうと思って、と続けようとしたが、愛菜美の周りにいる女子たちの黄色い声にかき消される。


「ええー、愛菜美、上野さんと知り合いなの!?」


「どういう関係?」


 周囲からの質問責めに、「そういうんじゃないよー」と困ったように答える愛菜美。


 それから彰の方に顔を寄せ、小声で言った。


「すみません、ちょっとお話ししたいことがあって。今日、いいですか?」


 やっぱり何か霊的なことで悩んでいるんだな、と彰は思い、


「もちろん」


 と頷いた。

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