愛菜美の熱と老女の霊
学校だと恥ずかしい、と愛菜美が言うため、流れでそのまま家まで送ることになった。
「いいんですか?」
言う割に、嬉しそうな表情の愛菜美。
「なんか緊張してるみたいだしさ。歩きながらの方がほぐれるかなって」
愛菜美が進み出した方向は彰の家とは真反対だったが、運動にもなるしな、と彰は思った。
「ありがとうございます。・・・優しいんですね」
愛菜美の顔は少し赤いようだ。熱でもあるのだろうか?と心配になる彰。
「そうだ。さっき返したあのタオルには、何も憑いてなかったから大丈夫だよ」
「?」
愛菜美は一瞬怪訝そうな顔を浮かべたが、やがて理解に及んだのか、
「ありがとうございます」
と笑った。
「話っていうのは、何か相談事?」
聞くと、愛菜美は少し俯き加減になり、言った。
「あの、く・・・」
「ん?」
「黒川さんとは、付き合ってるんですか?」
予想外の質問に一瞬戸惑う彰だったが、
「いや、付き合ってないよ」
と落ち着いて返答する。
「本当ですか」
嬉しそうな声をあげて彰を見る愛菜美。その時彰は、彼女の後ろにある公園に、気になるものを見つけた。
「どうしたんですか?」
彰が自分の背後を直視していることに気づき、愛菜美が尋ねる。
公園の中央にある砂場の横に、老女の霊が立っていた。微弱な力しかないため、ほとんどの人には姿は見えていないだろう。
教えると怖がらせてしまうと思い、彰が伝え方を考えていると、
「何かいますよね、この公園。私も霊感がある方なので、わかるんです・・・」
と愛菜美から切り出した。
「そうだったんだ。でも、悪い霊ではないから心配しないで大丈夫だよ」
教会に所属している霊能者は、依頼外の霊に手出しをすることは原則禁じられている。組織統率とスムーズな業務遂行のため、除霊行為を行うときには必ず事務局の担当者への連絡が必要となる。
この老女の霊は他人に危害を加える様子もないため、放っておいて問題ないだろう、と彰は思った。霊を見つけるたびに除霊をしていたら、時間がいくらあっても足りない。
「でもなんだか気味が悪い・・・。上野先輩、迷惑だってわかってるんですけど・・・そこの霊がいなくなるまで、一緒に帰ってくれませんか?」
と愛菜美。
「うーん、気持ちはわかるけど、いつもは難しいな。家の人に、ここまで迎えにきてもらうのはどうかな?」
彰がやんわりと断ると、泣きそうになる愛菜美。
「両親は2人とも遅くまで働いているので、無理です。いつも、家に着くまでびくびくしながら帰っていて・・・」
まいったなあ、と頭を掻く彰。
「仕事とか用事がない日だけ、でも大丈夫?それじゃ意味ないか・・・」
「大丈夫です!」
泣きそうだった顔はどこへやら、大きく頷く愛菜美。
こうして彰に、愛菜美を家まで送り届ける任務が課せられたのだった。
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