咲南の冷たさと老女の霊

 それから数日後、彰は再び愛菜美を家まで送るため一緒に帰っていた。


 道中、たわいない会話のやりとりを続ける。


「上野先輩は、食べ物は何が好きですか?」


「クリームパンかな」


「え、なんだか可愛いですね」

 

 彰の回答にクスクスと笑う愛菜美。


 その時ある案が閃き、彰は早速口にしてみる。


「今日は、公園を通らないルートを探してみようか。要は、あそこを通らなければいいんだもんな」


 その言葉に、愛菜美は一瞬視線を泳がせてから、


「ええと、ダメなんです、このルートじゃないと・・・」


 と苦しそうに言った。


「呪いが・・・」


「呪い?」


 彰が詳しく話を聞こうとした時、ちょうど問題の公園脇に差し掛かるところだった。


 思わず砂場の方へ目を向ける。


 そこには、数日前と変わらず老女の霊が立っていた。が、今日はその横に人がいる。


「ーー咲南?」


 老女の霊のすぐ近くで、咲南が何かしているのだった。手に持った物を、老女の霊に見せているように見える。


「黒川さん、ですよね・・・。何であんなところに」


 愛菜美が呟く。


 次の瞬間だった。老女の霊が、暖かい光を放って消えていく。それは悪霊を強制的に抹消される時とは異なり、自然な形で成仏しようとしている時に放たれる光だった。


 光とともに老女の霊が完全に消えた後、咲南もこちらに気づいたようだ。が、そのまま背を向け、反対側の出口に向かおうする。


「おい、待てよ、咲南!」


 声をかけながら、思わず公園の中に入っていく彰。渋々それに着いていく愛菜美。


「何?」


 冷たい声と表情で、咲南が振り返る。除霊後に無愛想に磨きがかかるのはいつものことだが、今日はなんだか特に冷たい、と彰は感じた。


「何って、事務局の杉浦さんには連絡したのか?除霊のこと・・・」


「ううん。別に、何もしてないもの」


 もういいでしょ?という表情で、さっさと踵を返して歩き始める咲南。


「おい・・・」


 どうしたんだよ、と言いながら咲南を追おうとした時、彰は愛菜美の存在を思い出した。


 後ろを見ると、拗ねたような表情で愛菜美が俯いている。


「そうだ、池上さん!」


「池内です」


 俯いたまま、愛菜美が強い口調で訂正する。


「ごめん、池内さん。ここにいた霊だけど、もういなくなったから。今後は安心して帰れるよ!」


「えっ」


「もう何も感じないだろ?」


 そう聞かれ、愛菜美は戸惑った。霊感があるというのは全くの嘘で、彰と一緒に帰るための口実でしかなかったからだ。


「そ、そうですね。そういえば・・・」


「じゃあ、今日はここで。気をつけて帰ってね!」


 彰は爽やかに言うと、咲南が歩いていった方向へと駆けて行った。

 

 ひとり残された愛菜美は、がっくりと肩を落とした。


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