EP2 上野彰の告白

プロローグ 鈍感

「上野!」


 敵を飛び越して、ボールが彰の頭上に飛んできた。ゴールはもう目の前だが、ディフェンスが3人立ちはだかっている。


ーー足で受けてパスを回すか?


 いや、と彰は頭の中で首を振る。この状況下じゃ簡単に取られてしまう。このまま押し込む方がいい。


 彰は地面を蹴り、そのままヘディングシュートをした。


 しかし、ディフェンスの間を抜けたボールはそのままキーパーに弾かれる。


 弾かれたボールを捉えたのは、ゴール前で構えていたチームメイトの1人。


ーーよし、いけ!


 チームメイトが放ったシュートは、見事にキーパーを横をすり抜けてゴールネットを揺らした。


「おっしゃー!」


シュートを決めたチームメイトとハイタッチする。


「やっぱいいなー、彰。正式にサッカー部入らねえ?」


「うーん、考えておくよ」


 そう答えるものの、いつ入ってくるかわからない除霊の仕事があるため、彰は部活に所属するつもりはなかった。だが運動神経の良さを買われてか、メンバーが足りない時などは練習への参加を要請されることがある。


 やっぱサッカーって楽しいなあ、と思いながら水飲み場へ行くと、見知らぬ女子生徒が立っていた。セミロングの黒髪に、綺麗に整えられた前髪から覗くぱっちりとした瞳。アイドルグループのセンターの隣にいそうな子だ、と思った。


「あ、あの!練習もう終わったんですか?」


 汗だくのまま水を飲もうとする彰に、女子生徒が緊張した面持ちで話しかけてくる。


「うん、終わったよ。誰か探してるの?」


「いえ、あの、上野さん・・・ですよね。私、一年B組の池内愛菜美といいます」

 

どうやら後輩らしい。通りで見たことないわけだ、と思っていると、愛菜美はタオルを差し出した。


「いきなりすみません。これ、よかったらどうぞ!!」


「え」


 思わず差し出された白いタオルを受け取る彰。


「では!」


 お礼を言う暇もなく、愛菜美は足早に去っていった。


「あれ、今のって一年の池内さんだろ。可愛いって有名だよな。何してたんだよ?」


 同じく水を飲みきたチームメイトの一人が、からかうように話しかけてくる。


「えーと・・・」


 受け取ったタオルを眺めながら、彰は愛菜美の緊張した面持ちを思い出して言う。


「このタオル渡された。何か取り憑いてると思ったのかな?」


 チームメイトの呆れたような視線には気づかぬまま、一応咲南にも見せてみるか、と彰は思った。

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